第11話 お片付けと

「あー……疲れた疲れた疲れたー……」


 部屋の隅にはソファと机が置かれた小さなスペースがあったので、そこにドカッと腰を下ろして天井を見上げる。ラビッツも向かいの席に座った。


「お疲れ様。ごめん、私のせいで。私が付き合わせたから……」


 俺相手にしおらしくなってる!?

 そんなに責任を感じさせてしまったのか。フォローしないと。


「校舎をぶらついていなかったら見つけられなかったわけだしな。ラビッツのお手柄だ。誘ってくれてよかったよ」

「う、うん……」


 しかし、本当に疲れた。俺の対応はあれでよかったのかと今さらながら思い出して不安になってくる。普通は隊員になったばかりの新人なら慣れた先輩を呼びに行くところだろうが……ゲームの強制力で総入れ替えだからな。


 もう終わってしまったことだし、違うことを考えよう。


 楽しそうだよな……闇鍋ならぬ、闇水。


「ラビッツは闇鍋って、したことあるのか?」

「……前世で、中学の時に一度だけ」


 リア充だったのか!


「どうだった?」

「グミを入れると悲惨なことになる、と学んだわ」

「……グミ……」

「あまりのまずさに、グミを入れたあとは皆食べられなくなって――、あ! 私じゃないのよ! 私はポッキーを割って入れただけ!」


 ポッキー……。


 友人はいたものの、休日に闇鍋をやろうと誘い合うような仲間はいなかった。クラスメイトの陽キャ連中も、経験があったのだろうか。


「いいな……」

「え、ポッキーが?」

「いや、俺は陰キャだったからさ」


 すっと立ち上がる。

 暗い気分になりそうだったので、例の紙コップが並ぶ机の前まで移動した。


「もしかして飲む気じゃ……」

「報告のネタにもなるしな。少し味見するくらいなら大丈夫だろう」


 楽しそうだし。

 黒子もハラハラしているかもしれないが、これくらいなら大めに見てくれるだろう。


 ただし、チャンポンだけはやめないとな。ミイラ取りがミイラになる。混ぜる前の回復水を飲んでみるか。ピッチャーに残っていた液体だ。葉は混入していないし、効果もすぐに消えるだろう。


 空の紙コップに注いで、と。


「おっ、確かにわずかに回復するな。地味に」


 本当に地味〜にだ。つまり、魔力を消費して回復水をつくって飲んだところで、魔力消費によって疲れるからプラマイゼロで何も変わらない。


 さて、次は……眠気効果の水はごく少量だけ……あー、なるほど。満腹になったあとのような、ふわっとした眠気を感じるかもしれない。で、味変化の水は……あれ、美味い。砂糖水みたいな味を想像していたが、やや塩気があって美味いぞ? なんだこれ。あ、前世で飲んだ梅昆布茶に似ているのか? こいつはセンスがあるな。この味はもうこの世界では堪能できないかもしれない。全部飲んでしまおう。


「それ、美味しいの?」

「ああ。実はかなり美味い」

「ちょうだい」

「あ……」


 ひったくられて、飲まれてしまった。ゴクゴクいっちゃってる。


「美味しい……!」

「間接キスだな」

「……っ。気にするタイプじゃないの、私」

「令嬢がそれでいいのか」

「普段はやらないわよ!」

「せっかくだし、直接キスしてもいい?」

「駄目に決まってるでしょ!」

「気にするタイプじゃないって言ったくせに」

「直接は気にするわよ!」


 あわよくば、は無理だったか。


 気を取り直して、次は精神高揚……ん、これは少しまずいんじゃないか? わずかに意欲は湧くが、さっきの眠気との合わせ技で、なんだか気分がおかしい……。毒消しでどうにかならないか。……駄目か。さすがに毒ではないらしい。となると、毒消しの効果は確かめようがないな。これを作った奴は、妙に疑い深い男なのかもしれない。それならチャンポンなど飲むな、という話だが。


 魔法効果増幅はさすがにやめておこう。


 残りは二つだ。一つを少しだけ……あ、やはり酩酊か? まずいな。これまでの合わせ技のせいで、普段以上に警戒心がなくなってついグビッと飲んでしまう。まぁ、効果はすぐに消えるだろうが。


 となると、正体不明の残り一つが気になるな……。


「ニコラぁ。これ、変な気分になるー。ふわふわー」


 アホか、ラビッツ!

 何を飲んでるんだ!

 効果を探るのに集中して、目をつむっていたばっかりに気づかなかった!


「飲んじゃ駄目だろ!」

「だってニコラも飲んでたし、私も報告書? の下書きの手伝いくらいはできるかもと思ったし」

「気持ちは嬉しいが駄目だ」

「さっきの、美味しかったもん」


 ハロルドくんが飲まなかった葉っぱ入りのチャンポンが半分もなくなってる! そんなアホな奴じゃなかっただろう! ピッチャーの方ならすぐに効果が抜けるのに!


 薬の効果は人による。効きやすい体質の者には、てきめんに効く。俺は多少の耐性訓練を積んでいるが……。ラビッツは、最初に飲んだ美味い水で警戒心が薄れ、チャンポンの入った紙コップにまで手を出してしまったのかもしれない。


「とりあえず、そこのソファで休め。俺がここを片付けるから」

「はーい」


 ラビッツはてくてくとソファへ歩いていき、その上で丸まった。


 まずいぞ。まずは証拠隠滅だ! 幸い、流し台もある。潰された植物は小さな瓶に詰めて、蓋をする。あとで提出するためにポケットに入れとこう。紙コップは洗ってゴミ箱へ。ピッチャーも、まとめて洗っておこう。


 一通り片付けて、残ったのは正体不明の最後の一種類と、ハロルドくんが残したチャンポンだ。どうするか。とりあえず正体不明のものをわずかに飲んでみる……ん、体がかすかにポカポカするな。いや、待てよ。この感覚は……。


 見当がついたので、そのピッチャーの中身も捨てて洗う。わざわざ残しておく必要もない。葉も入っていないし、効果はもっても三十分程度で消えるだろう。


 あとは、このチャンポンか……。ハロルドくん以外は全員飲み干したようだ。これだけは飲まずに証拠として確保しようかとも思ったが……ラビッツに飲まれて減ってしまっているしな。


 一度口をつけたものは検査に向かない。なんの処理も施していないし、葉の付着はあるもののもって一日。炭酸のように少しずつ抜けていく。飲んだ場合の人への効果は、数時間程度だろう。少し試して、とっとと捨てよう。


「飲むのぉ?」


 ふらふらとラビッツが寄ってきた。


「ここではまずい。寮に持ち帰って少しだけ試してみようかと」


 黒子に止められる可能性もあるけどな。


 さて、ラビッツをこのままにはしておけない。しばらくここに隠れてもらって、俺だけで軽食を二人分買ってこよう。それを一緒に食べて、ラビッツの薬の効果が抜けてから寮へ送るか。


「ここではまずいの? じゃ、私の部屋ならいいんじゃない?」

「へ?」


 ラビッツは紙コップと俺の腕を掴み――、気づいたら女子寮の彼女の部屋にいた。


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転生デビュー 〜おバカ王子とツンデレ悪役令嬢のジレキュンな日常〜 春風悠里 @harukazeyuuri

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