第7話 得意技

「皆さん、お集まりいただきありがとうございます!」


 秘密基地の部屋は、来てみたら様変わりしていた。まるで高校のように前向きに並んでいた机と椅子がなくなり、代わりに木製の円卓が中央に用意されている。くつろげる雰囲気だ。


「なんか豪華になってないか?」


 リュークがルリアンに聞いた。当然の疑問だろう。俺とラビッツはゲームで知っているだけに、わざとらしくやや驚く顔をするだけでだんまりだ。


「はい。顧問の先生が『用意しておいたぞ』とおっしゃって。すぐにどこかへ行ってしまいましたけど」

「あいつ、何者なんだ」


 俺を見るなー。

 何を言うか考えるのも、大変なんだぞ。


「学園長の知り合いっぽかったし、なんとかしたんじゃないか?」

「あー、そういえばそうか。あの格好のまま顧問は学園長と普通にしゃべってんのか……」

「あはは。せっかくなのでと机や棚を新調していただいたそうです」

「…………」


 だから、皆して俺を見るな!


 ま、そうなんだよな。王子である俺がいるので、せっかくならいいものにしようと、やや高級仕様だ。背後には王家からの寄付金の存在がチラついている。皆もそんな流れを察しているんだろう。


 俺はルリアンの言葉に、わざと感心してみせる。

 

「なるほど。顧問に『これがあれば便利そうだ』と頼めばなんでも手に入りやすそうだな」

「はい。必要なものがあればお伝えします」


 部屋がこうなるのは知っていたが、ここはゲーム世界とは違う。頼めばそれこそ、ほんとにいろんなものが手に入るかもしれない。


 よし、ここは陽キャっぽく!


「今度エロ本を頼んでみよーぜ!」


 ――スパーン!


「いてーよ!」


 ラビッツに扇子ではたかれた。


「学園パトロール隊をいかがわしい団体にしないで! あんただけ脱退させられるわよ」

「じ、冗談だよ、ラビッツ」

「私という婚約者がありながら、変なものを頼もうとしないで」

「わ、分かった、分かったって」


 ちょっとした冗談なのに。いや、陽キャというより、ただのセクハラだったかもしれない。


「……ラブラブ?」


 ベル子が顎の下に人差し指を立て、こてんと首を傾げた。


「そのとーりだ!」


 嬉しくなった俺は親指を立ててキラリと歯を輝かせ――、


 スパーン!


「違うわよ!」

「いてーよ! 今のは叩くとこじゃないだろう」

「え? えーと???」


 ゲームよりも叩かれる回数が増えている気がするな。まったく。ゲームでは婚約者ネタで調子に乗っても、扇子は飛んでこなかったのに。せっかくなら、そこも原作通りにしてほしいものだ。


「ラブラブじゃないの? ラビさん」


 お、あだ名になったな。


 ゲームだとラビッツの入隊はもっと遅く、それからあだ名で呼ばれるようになる。今朝の食堂でも一緒にいたしな。ラビッツは貴族で俺の婚約者だから、まだ「さん」付けなのは仕方ない。


「そ、そんなんじゃないわよ」


 なんでそこでモジモジするんだよ、ラビッツ! 俺が期待しちゃうだろ!?


「それより、今日はどうするのよ」


 話を変えたな。

 俺もその方が助かる。


「はい。今日はこれから、今後のパトロールの方針を決めたいと思います!」

「そこからか……」

「はい、そこからです」


 ゲームではリュークが主人公で、ルリアンがメインヒロインだ。大体はこの二人の会話によって共通シナリオが進んでいた。


 俺は先を知っているだけに、余計なことを言いそうだ。未来予知キャラにならないためにも、あまりしゃべらないようにしよう。


 ……もう手遅れかもしれないけど。

 

「まずは、それぞれの得意な魔法や能力を確認し合うのはどうかしら」


 おお、ラビッツ! 守りに入ってダンマリしようと思った俺とは違う! やっぱり、知っている会話だけが続くのはつまらないからな。


「最高にいい考えだな、ラビッツ! さすが俺の婚約者! いざという時に状況に応じて誰を頼ればいいか分かるからな。好きだぜ!」


 ――スパーン!


「褒めすぎ」

「理不尽だ!」

「……ラブラブ?」

「だから違うわよっ」


 まったく。せっかく記憶力のいい頭の持ち主になったというのに、ポコポコ叩くんだもんなー。


 ま、そんなに痛くはないけどな。というか、どんどん威力が落ちている。ラビッツの中にも、俺に対する仲間意識が芽生えてきたのかもしれない。


「あはは。私もいい考えだと思います。実は、とってもいいものを学園長からいただいてきたんです」


 ジャッジャーン、と効果音付きでルリアンが取り出したのは、この学園のマップと振り子だった。高級そうなケースをかぱっと開けると、中にはクリスタルの振り子――ペンデュラムが収まっている。


「旧校舎でこちらを使うと、おかしな魔法が使用されていたり魔力溜まりができている場所が分かったりするらしいのです!」

「おお、すごいな。最先端の魔道具か?」

「はい! 仕組みは分かりませんが、名前は『導きのペンデュラム』です」

「なんで名前があるんだよ……」


 リュークとルリアンは息が合っているように見えるけど、どうなんだろうな。恋愛関係になるかどうかは、まだ分からないな。


 ちなみにこの振り子は、学園全体を霊的に把握している顧問が、霊力のようなものでこっそり動かしている代物だ。


「それから、私は治癒魔法が得意なので、お怪我をされた際はお任せください。浄化や回復魔法も扱えます!」


 パチパチと皆が拍手をして、次は隣に座るベル子を全員がじっと見る。


「えっと……バリアが得意。剣も、多少は使える」


 ベル子もリュークと同じく剣術科だ。彼らが常に持っている剣は、授業以外では鞘に収めておかなければならない。鞘から抜くと、武器に帯びた微量の魔力に学園の「魔力探知」の魔道具が反応し、職員が駆けつける仕組みになっている。


 もっとも、探知するのは攻撃性の高い特殊な魔力だけだ。武器類にその魔力を帯びさせ、常に鞘などの専用ケースに入れておくことは法律で定められている。料理の着火などで使う魔力まで探知していたらきりがないし、発電システムにも魔法が使われている。武器以外の異常な魔力を探知するのは、学生の力では難しい。

 

「じゃ、次は俺だな。といっても、剣が得意なだけだ。浄化もできるが」


 リュークは、自分の膨大な魔力を剣に乗せることができる。威力は爆上げになるし、光を帯びて浄化作用もある。主人公だから規格外に強い。


 さて、俺の番か。


「俺は王族直系だからな。女神様の祝福を受けているとかで、高度な精神魔法が扱える。鎮静化や鼓舞、催眠とかね。ただし、精神と魔力の消耗が激しくて、使うとすぐバテる。対象が少人数なら、そこまででもないけどね」


 ちなみに、俺の護衛をしている黒子には、王族がこの力を無闇に振るわないよう、見張り役も兼ねている。


「次は私の番ね。転移魔法が使えるわ。でも、同じく精神と魔力の消耗が激しいから、時間を空けて一日に二回が限度。自分を含めて二人までしか運べないし、行ったことのない場所には転移できないわ。成長すれば転移できる人数も増えて、疲れにくくもなるらしいけど。人ではなく物だけを転送することもできるけど、そちらは下準備が必要ね」


 転移魔法は特殊魔法だ。この能力を持ち、俺と仲のいい侯爵令嬢だからこそ、ラビッツは俺の婚約者に選ばれた。人や物を転送する魔法技術は発展しているものの、転移魔法能力者が仕上げをしなければ魔法陣も正しく機能しない。


 この魔法を扱えるかどうかは才能が全てで使い手も少ないので、能力者は転送装置の管理といった仕事に就けることが約束されたようなものだ。人の転移でなければ、魔力消耗もそれほど激しくないしな。


 どうしてこの能力があると俺の婚約者に推されやすいかといえば、危険が迫っても一緒に逃げられるからだ。もし俺が国王になれば、できる限り側にいることになるだろうな……。リュークとくっついた場合は最終的に、二人でイチャイチャ俺の側近エンド。それが、ゲームでのラビッツルートだ。


 よし、あとはここにいないオリヴィアか。

 

「オリヴィア嬢については俺が説明しておくよ。彼女はテレキネス能力者だ。知っている相手の頭にメッセージを飛ばすことができるものの、一文程度が限界で、多少は魔力も消耗する」

「そうなんですね。ありがとうございます、ニコラさん」

「ああ」


 テレキネス能力者は受容性も高い。王族である俺のメッセージも彼らに飛ばすことができるものの、それは王家から口外禁止を言い渡されている。王族特権能力……多いんだよな。


「皆さんもありがとうございます。お互いのことがよく分かりましたし、張り切ってパトロールをしましょう! せっかく集まっていただいたので、今日はお休みの日ですが、早速この『導きのペンデュラム』を使ってみようと思います!」


 ルリアンが円卓の上に学園マップを広げた。


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