第3話 学園パトロール隊

「あのあのっ、朝は失礼いたしました。私、学園パトロール隊の隊長さんになったのですが、お願いがあります。ぜひ入隊してくださいっ」

「オッケー!」

「はわわ!? 即決ですか!?」


 ぶらぶら歩いていたら、ルリアンにばったり会った。そして予想通り、隊への勧誘をされた。ゲームで展開を知っているせいで、まるで預言者にでもなった気分だ。


 ルリアンは驚いて目を大きく見開いている。素直で明るく相手を否定したりもしない、ほわほわした雰囲気の癒やしキャラだ。


 この子相手なら何を言っても大丈夫だという前世の記憶が、俺の心を大胆にさせる。


「ふふん、ルリアンちゃん。俺様は王子、全てお見通しだ。君は学園長に『魔力の強い者が集まるこの学園では不可思議な現象も起こりやすい。首席の君には学園のトラブル対応に一役かってもらいたいんだ。メンバーの選定は任せるよ。ちょうど、今までのメンバーが卒業してしまってね』なんて言われたんだろう。そしてさっき通りすがりのリュークにお願いして了承してもらい、手分けしてメンバーになってくれる奴を探している。リュークは君に言ったはずだ。『さっき一緒にいた俺なら、すぐに了承してくれる』ってね!」


 ビシッと親指を立てて決めてみせる。


 ゲームでは全員が集合した時に、まさにさっきの俺の「オッケー!」なシーンが回想されていた。


 あ、あれ?

 黙っちゃったぞ?

 もしかして、突然饒舌になるオタク特有のムーブをかましてしまったか? 引かれているのか?

 

「は、はわわわ。すごい……! 王子様ってすごいんですね! こんなにすごいと思ったのは、生まれて初めてかもしれません!」


 よかった、驚きで固まっていたんだな。

 やはり、ルリアンだ。


「ふふん。まぁね」

「すごい、すごすぎです!」

「もっと褒めてくれてもいいんだぜ」


 ルリアンにキラキラした瞳で「すごい、すごい」と連呼されると、つい調子に乗ってしまう。目立ちたくはないけど、尊敬されるのは気分がいいよね! ルリアンはうっかり失言しても、全てを受け入れてくれると知っているから安心だ。


 ――パシーン!


 突然、頭を横からはたかれた。はたいた扇子でパタパタと自分をあおいでいるのは、ラビッツだ。


「いてぇよ!」

「なに鼻の下のばしているのよ、気持ち悪い」


 再登場のタイミングがよすぎる。これがギャルゲーの力なのか。それとも、さっき立ち去ったと見せかけて密かに俺をつけていたのか……どっちだ。


「まさか俺のストーカー!?」

「婚約者でしょうが!」


 またはたかれる。

 ああ……ゲームでお馴染みの、やけに豪奢な兎柄の扇だ。


「あのぉ。婚約者さん、ですか?」

「その通り。俺様の婚約者、ラビッツ・ロマンシカだ」


 ……そういえば、王宮では俺様キャラを演じないと病気かと心配されたけど、ここでは必要ないかもしれないな。我ながら痛々しいし、控えめにしておくか。


「はわわ。ルリアン・ウィービングと申します。ラビッツ様ですね、よろしくお願いします」


 ま、緊張するよな。将来の王妃だ。そして俺は将来の国王陛下……深く考えると胃が痛くなるからやめておこう。

 

「……よろしく。もっと楽に呼んでちょうだい」

「え、えっと。それなら、ラビッツさん」

「俺のことも、ニコちゃんでいいからね」

「はい、ニコラさん!」

「思いっきり、スルーされた!?」

「あはは」


 おお……画面越しでしか見られなかったルリアンが可愛く笑っている。おバカキャラもいいな。俺がちょっとおどけるだけで、こんな笑顔が見られる。


 ――スパーン!


「だから鼻の下をのばすのは、やめなさいよ」

「いてぇよ!」


 ゲーム同様、バンバン叩くよなー。

 さっき会った時に扇子で叩かなかったのは、単純に入学式のために鞄にしまい、そのままだったのだろう。今はもう制服のポケットに差してある。

 

「あのぉっ……」


 うぉぅ、ルリルリがラビッツを誘ってもいいかなと媚びるように俺を見て……!


「ああ、ラビッツも誘おう。ラビッツ、お前も学園パトロール隊の一員だ」

「いやよ」


 ……そこもゲーム通りにするのか。あの神台詞まで真似したくらいだから予想はしていたが。


 ラビッツは、このあとリュークの度重なる説得に折れて入隊する。ルリアンへのみみっちい嫌がらせに対する謝罪も兼ねてではあるものの……そこまでゲームの真似をするのかは、分からないな。


「ニコラさんっ、いきなりはよくないです。学園パトロール隊が何をするのかを説明しないと、誰もはいとは言えません」

「大丈夫だ。俺とラビッツはツーカーの仲なんだ。何も言わなくても念力で全てを理解している」

「はわわわ〜!? そうだったんですか、さすがです。世の中、不思議だらけですね」


 ギャルゲーのヒロインは口癖が決まっていることが多い。ルリアンはオーソドックスに「はわわ」だ。ラビッツはツンデレが癖みたいなものか。「寂しいのは嫌い」という台詞が多用されるが……俺に言ってくれるシーンはなかった。


「そうだよな、ラビッツ!」

「はぁ……そうね」

「安心しろ、ルリアンちゃん。ラビッツのことはリュークが説得してくれる。そのうち必ず入隊するから大丈夫だ。それより他のメンバーを探しに行こうか」

「は、はい。分かりました。お願いします」


 むんっと、ルリアンが気合を入れる。やっぱりメインヒロインだけあって可愛い。


 探すと言っても、他のメンバーはリュークが見つけてくるからな。俺たちは何も成果がありませんでした状態でリュークと合流することになる。それを分かったうえで、探さないといけないわけで……。


「ルリアン嬢はどこに行きたい?」

「へ?」


 あ、ゲームではルリアンちゃんと呼んでいたのに間違えた。女の子に「嬢」をつけるのはもう癖になっている。まぁいいか。これから名前を呼ぶことも多いだろう。ゲームみたいに時間は飛ばないし、普通の呼び方にしておこう。


「ルリアン嬢が行きたいところに行こう。どうせ探すなら、君が一番魅力を感じる場所がいい」


 ルリアンは実はちょっと可哀想な子だ。両親を事故で亡くし、早く家を継げるようにと健気に頑張っている女の子だ。貿易で成り上がった富裕層の家で、今は祖父母が実権を握っている。『いつ倒れるか分からないから、早く一人前になりなさい』と厳しい教育を受け、友達と放課後に遊ぶことさえ許されなかった。だから、寮で生活できるこの学園が、仲のいい友達をつくる最後のチャンスだと考えている。

 

「え、えっとえっと、そうですね……」

「待ちなさいよ」

「ん? ラビッツはどこかへ行くんだろう?」


 ゲームでは、この後ルリアンと俺の二人でリュークと合流したはずなんだが。一緒に来るつもりか? いや、来ないよな。さっき断ったもんな。


「はぁ!? あんた、婚約者がいながら他の女の子を口説くなんて、どういうつもりよ」

「ええ!? 口説いてないぞ。な、ルリアン嬢」

「はい。えへへ、ニコラさんとラビッツさんはお似合いですね」

「おう!」


 馴れ馴れしくしている自覚はあるから、そう見えたのかもしれない。仲間意識も芽生えたしな。


「…………」


 あれ、ラビッツに睨まれた。なんか殺意まで感じるくらいだぞ? あ、そうだった。ラビッツはリュークを狙うとか言ってたな。ここは……苦しいが、ラビッツのために否定しておくか。


「ま、間違えた。お似合いじゃないのかもしれない。えっと、腐れ縁だ」

「えー、お似合いですよ〜。念力でツーカーの仲なんですよねっ」

「ま、まぁな」


 不用意な自分の発言のせいで、迷走しているな。少し深呼吸して落ち着こう。


 ラビッツは何を考えているのだろう。黙ったまま、ついてきているが……。


 女の子の考えていることは分からない。前世でもそうだった。そういえば、ギャルゲーの女の子は感情が分かりやすいよな。だから男向けなのか。だとすると、前世持ちのラビッツは、俺にはかなり手強いんじゃ……。


 チラッと振り返る。


「なによ」

「後ろじゃなくて、横に並んだらどうだ?」

「……私に指図しないでくれる?」


 そう言いながらも俺の隣に来た。


 ものすごくピリピリしているけど、わざわざ近づいてきてくれるのは、かなり嬉しい。


 誰か、今の親密度を教えてくれー。


 そんなことを願いながら、俺は再び足を進めた。


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