臭すぎダンジョン
ちびまるフォイ
臭いのある生活
「さあ、冒険へ出発だ!!
このダンジョンで一攫千金を手に入れて
死ぬほど大好きな納豆を食べるんだ!!」
夢と希望とあくなき納豆へのあこがれを胸に秘め。
高難度ダンジョンへと足を踏み入れーー。
踏み入れられなかった。
あまりの臭気に入口で引き返した。
「くっっっさ!!! なんだよこの匂いは!?」
自分の嗅覚が優れているわけではない。
どの冒険者も鼻栓をして涙を流しながら進んでいる。
納豆好きの自分ですら鼻がもげそうな臭い。
鼻栓も万能ではなく、口呼吸だけでも臭いがわかるほどの臭さ。
数歩進んだところでやっぱりムリだと思って引き返した。
近くの冒険者酒場で死ぬほど顔を洗ったが臭気は取れない。
「お前さん、あのダンジョンに挑んだろ? 臭いでわかる」
「ええそうです。前からあんなに臭いんです?」
「いやぁ、前はもっとマシだった。だんだん臭くなったんだよ」
「なんで……」
「今じゃあの臭いにまけて挑戦する冒険者も減った。
ダンジョンはますます臭くなるし、この酒場も移転するかもな」
「そうはさせるものか」
「へ?」
「俺はこの酒場で食べる納豆が大好きなんだ!
この店を移転させてたまるか!!」
「ずいぶん偏った食傾向だな……」
誰も臭いをやっつけられないなら、自分がやるしかない。
古今東西に散って誰にも興味を持たれなかった清掃魔法。
それらを学び尽くした清掃魔法のスペシャリストが誕生した。
「さあ、今度こそ臭いの原因を断ち切ってやる!」
鼻栓には特別な清掃魔法をほどこした。
これでダンジョンも今以上に進むことができる。
「においの原因は……コレか!!」
ダンジョンから発せられる強烈な臭気。
混沌とした臭いの源泉はわからない。
ただ、ダンジョンにはいつからかわからない屍が転がっていた。
冒険者も、モンスターも。
「どおりで臭うわけだ……。
ダンジョンに挑戦して死んだ生物が放置されて腐ったんだ」
ましてダンジョンのように換気もできない場所。
さまざまな臭いは折り重なって強烈な悪臭が完成する。
「原因がわかればこっちのもの。
消臭魔法!! ムシュウダー!!」
ムシュウダーは消臭魔法でも上位の魔法。
指定した臭いをすべて吸い取ってくれる。
「これでばっちりだ。
臭いが消えたダンジョンには冒険者も集まり
ダンジョンも攻略されるだろう!」
安心して鼻栓を取った。
そこから意識がなくなった。
次に目を覚ますと教会だった。
「迷える子羊よ、ダンジョン内で息を引き取るとは情けない」
「え……死んだ……?」
念のために保険として付与していた「デスリーヴ」の魔法が発動。
自分は教会へと転送されていた。
「あなたはダンジョンの下層で、臭いで脳が焼ききれて死んだのですよ」
「なんて死に方……。って、そんなわけない!
私はたしかに死体の臭いを消臭したはずです!」
「まさかあのダンジョンの悪臭が、
死体だけから発せられるものだとでも?」
「そんな……」
あさはかだった。
自分は死体の臭いさえ消せばなんとかなると思っていた。
しかしダンジョンにはもっと複雑な悪臭が立ち込めていたのだ。
鼻栓をしていて気づかなかったのだろう。まだ臭いが残ってることに。
「詰めが甘かったか。今度こそ完全に臭いを根絶させてやる!!」
自分の中の消臭欲に火がついた。
ふたたびダンジョンへ向かって臭いの撲滅へと打って出た。
モンスターの体臭の消臭。
ダンジョンに散らばるゴミの消臭。
冒険者の汗や皮脂の臭いを消臭。
あらゆるダンジョンに立ち込めていた臭いを消臭した。
それだけにとどまらない。
「消臭魔法!! オキガタ・ファブリーズ!!」
ダンジョン各地には一定間隔で消臭魔法を付与する。
これで臭いが生まれた場合でも魔法が消臭してくれる。
最後にダンジョン内にスライムをたくさん配置した。
彼らはぷるぷるゼリーボディが臭いをすってくれる。
何十にも徹底したニオイ対策を施した。
これによりダンジョン内で鼻栓を外しても死なないほどになった。
「すぅぅ~~はぁ~~!! 嫌な臭いがしない!!
完全に消臭されたんだ! やったーー……んん?」
ダンジョンの悪臭が消えたかに思えた。
消臭されたことで、かき消されていたダンジョンのわずかな臭いを感じる。
「これだけ消臭したのに、まだ臭いが……?」
ダンジョンの攻略ルートからは大きくはずれて、
臭いにいざなわれるままに下層へと進んだ。
徐々に臭いが強くなる。
「うぐっ……。なんだこの臭い……!」
耐えきれなくなりそうになりながら前に進む。
やがて最深部には黄土色に汚く輝く宝玉がまつられていた。
「こ、これは……!!
あらゆる臭いの根源を発するという宝玉。
伝記でしか聞いたことのない遺物。
いくら消臭をしてもぶり返す臭さ。
ダンジョンの深部に臭核があったのが原因だろう。
「ついに見つけたぞ。これが悪臭の原因だったんだ!
この! こわれろーー!!」
会敵した臭いのラスボスに消臭ブレードを突き立てた。
宝玉はあっけなく壊れて四散した。
あれだけ立ち込めていたダンジョンの臭いはスッと消えた。
「き、消えた! ダンジョンの土の臭いも、
汗の臭いも、過剰につけた香水のまじりあう悪臭も消えた!!」
臭核が破壊されたことで、すべての臭いが消えた。
完全なる消臭がここに完了した。
スキップでダンジョンを出ると、
あれだけ臭かったダンジョンが
鼻栓なしに入れることに冒険者は驚いていた。
「あの臭かったダンジョンが……」
「安心してください。完全に脱臭しました。
もう鼻栓なんて不要です。臭核を破壊したから臭いません!」
「ありがとうございます!!」
もう臭くないダンジョンはやがて攻略されるだろう。
ダンジョンを直接攻略したわけではないが、
自分のやった消臭が誰かの攻略を手助けできたことが嬉しくおもう。
「今日は消臭記念日だ!! パーティするぞーー!!」
がんばった自分へのご褒美として、
ダンジョン近くのお気に入りの酒場へと向かった。
そこで大好物の納豆をしこたま頼んで、
いつもより多く練りに練りまくってから口に運んだ。
「んん!! これはっ……!!」
大好きな納豆が口の中ではじける。
その味はもちろん。
「……味がしない」
臭核が破壊されたことで、すべての嗅覚が失われたこと。
そのことにまだ誰も気づいていなかった。
臭すぎダンジョン ちびまるフォイ @firestorage
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