やること全部やった俺、終わった世界で次を探す。
夜缶
第1話 とりあえずで始まる物語
「
植物の根が絡み合い、王座の形を成した
玉座に腰を下ろす。
俺はステータスウィンドウの隅に表示された時刻を、ぼんやりと眺めていた。
ついさっきまで、世界は魔王の影で赤黒く染まっていた。
だが、討伐を終えた今は、空がゆっくりと本来の色を取り戻していく。
雲が消えていく空には、満天の星――
……と言いたいところだが、スタッフロールが邪魔をして全然見えない。
試しに
すぐに次のスタッフ名が生えてくる。
仕方なく、諦めた。
「……はいはい、お疲れ様でした運営さん。」
そんな軽口を叩いてみても、このサーバーには反応する奴はいない。
このゲームにも、何人か親しいフレンドはいた。
けど皆、それぞれ自分の拠点サーバーで最期を迎えることにしたらしい。
結果、ここには俺だけが残った。
「このゲームもあと五分。……やっと解放されるー。」
不思議と、悲しさはない。
むしろ、明確な終わりがあることに、妙な清々しさを感じていた。
このゲームが始まって十一年。
俺はレベル上げとスキル上げに人生を突っ込み、
つい二ヶ月前、全ステータスをカンストさせた。
レベル、クエスト、スキル、エンドコンテンツ。
やれることはやった、全部やった。
たぶん、誰よりもこの世界で時間を過ごした自信がある。
「……さてと、最後にこの世界でも見渡して終わるとするか。」
玉座から立ち上がり、崩壊した遺跡の頂上へ出る。
眼下には、俺の“やらかしの跡”が広がっていた。
墜落した空島。
肥料を効率よく得るため、谷を整地してまで作った巨大な畑。
そして、調子に乗って一人じゃ倒せなくなったワールドボスの巨大な爪痕。
「ほんと、ろくでもないことばっかやってるな。」
苦笑しながら、夜空を仰ぐ。
空が、夜明けのように白く滲んでいく。
サーバーが落ちる前の、最後の光景だ。
「……なんだかんだ言って、楽しかったぜ。」
小さく呟いたその瞬間――
視界が真っ暗に、切り替わった。
⸻
風を感じる。
カプセルが開いた時のそれでは無い、本物の風。
頬を撫で、髪を揺らす、やけにリアルな感触。
まぶたの裏に光が差し込む。
ゆっくりと目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。
太陽が昇り、柔らかな陽光が体を包む。
「……え?」
立ち上がる。
土の感触。新鮮な風の匂い。遠くで鳥が鳴いている。
このゲーム《Eternal Ark Online》に順応した俺ならわかる違和感、どこをどう見ても――この世界は、現実だ。
「……マジかよ。」
軽く土を払いとりあえずで、ステータスウィンドウを開くジェスチャーをしてみる。
すると、淡い光の、いつも通りのパネルがぱっと浮かび上がった。
――――――――――――――――――――
名前:カイ
レベル:200 MAX
所持金:80450202G
HP 9,999,999/9,999,999
MP 9,999,999/9,999,999
上位職業:魔王
メイン職業:大魔導士・武聖
サブ職業:魔法使い・武闘家・戦士
ギルド:無所属
ステータス∨
スキル∨
称号∨
――――――――――――――――――――
「見慣れた画面だ…ステータスはどうなってる?」
――――――――――――――――――――
名前:カイ
レベル:255 MAX
所持金:80450202G
HP 9,999,999/9,999,999
MP 9,999,999/9,999,999
上位職業:魔王
メイン職業:大魔導士・拳聖
サブ職業:魔法使い・武闘家・農夫
ギルド:無所属
ステータス∧
STR 999,999
VIT 999,999
DEX 999,999
AGI 999,999
INT 999,999
スキル∨
称号∨
――――――――――――――――――――
「……いつ見ても壮観だな。」
「ゲシュタルト崩壊しそうだ。」
ウィンドウを閉じ、辺りを見渡していると遠くに森が見えてくる。
「……さて、あの森に向かって見るか。」
結局ここはどこなのか、サービス終了はどうなったのか。
「ま、いっか。敵の強そうな方へ行けば何とかなるだろ。」
空を見上げると青が、どこまでも続いていた。
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