私の最愛の幼馴染がぽっと出のクイズ王に惹かれているお話

未月キュウ

序章

テレビの前の"クイズ王"

「ということで、決勝に駒を進めるのは西峻寺高校! 項垂れるは県立西の速水真」


 その日、ぼんやりとした懸念に苛まれながらも、私はクイズ番組を見ていた。元々クイズ番組は好きだし、地元の高校がいいところまで進んでいたこともあって、なかなかに気持ちが入り込んでいた。


 その1組の男女には、確かに惹かれるところがあった。特に、男の人の方は目つきも変わっていて、クイズに全てを注ぎ込んでいるかのような本気度合いが見て取れた。むしろ、狂っていると言ってもいいほどであった。


 ただ、それだけのことだ。休み明けの登校日に級友との間で話題になることはあっても、その次の日には話題から消え去っていることであろう。そう思っていた。



 しかし、そんな常識的な空想は全くもって虚構であり、この日の出来事はむしろ末永く尾を引く結果となったのであった。



 休み明けの月曜日、昨日のクイズ番組の話は確かに話題に上がった。「地元の高校が活躍してたね」とか、「あの男の人かっこいいよね」とか、「あの2人付き合ってるのかな」とか……。女子中学生が好きそうな話であった。

 しかし、それで持ち切りというほどではなく、結局は運動会練習だとかの話に立場を譲ることとなっていた。



 というのは、学校での話だ。


 放課後、私はいつものようにとある家に向かった。何百回何千回と入り慣れた、ちょっとしたお屋敷のような家である。


「雫様、本日もお嬢様のためにありがとうございます」

「いえいえ、私は私のやりたいようにしているだけですから……」


 このお屋敷には使用人の方が1人住んでいる。その方と軽く談笑しながら、私はの部屋に通される。


 ノックをしてからガチャリとドアを開ける。


 壁一面の本棚には漫画やライトノベルが並び、部屋の隅には立派なゲーミングパソコンとゲーミングチェアが鎮座してある。実に彼女らしい部屋だ。


「おかえり、雫……」


 そして、その部屋のベッドには何物にも代えがたい彼女が腰を掛けていた。日焼けを知らないほど色白な幼い顔立ちには蠱惑的な右眼が嵌め込まれていて、いつまでも愛撫したいほど柔らかい黒髪が伸びている。本人がコンプレックスに感じているという150センチにも満たない背丈と控えめな胸囲もまた、彼女の絶対的な魅力である。


「ただいま穂香。……今日はゲームしないの?」


 私は彼女・月城つきしろ穂香ほのかに質問する。普段なら、部屋の隅のゲーミングチェアに腰を掛けているはずの時間であるのだ。


「うん……。今日はちょっと気が入らなくって……」

「大丈夫?」


 穂香は無類のゲーマーだ。本人は否定するけれど、腕前もプロゲーマーに匹敵するほどだ。だからこそ、そんな穂香がゲームに身が入らないというのは、十二分に心配に値する事象なのだ。


 すると、穂香は恐る恐る衝撃発言をするのであった。


「ねえ雫。恋って、何だと思う……?」


 途端、眩暈がした。


 穂香が、恋……?


 …………え?


 相手は……? どこの馬の骨? ……そもそもどこで出会ったの? ……じゃあ、二次元?


「ご、ごめん穂香。いい、いったい、どういう風の吹き回しかな?」


 私は錯乱を催しながらも、なんとか平静を装って見せる。


 すると、穂香はまたゆっくりと口を開く。


「雫は昨日の『クイズハイスクール選手権』見た?」

「うん。見たけど……」


 ここでもその話題が出てくるとは思っていなかった。本日何度目かの話題である。


 …………ゑ?


 この流れでその話題ってことは、…………ゑ?


「速水真さんについて、どう思った?」


 速水真さん。確か、県立西の男子生徒の名前がそんな名前だったような気がする。


「凄かったよね」

「だよね!?」


 ここまで穂香のテンションが高くなったのも久々な気がする。そのテンションの上がり具合に、半ば吃驚しながらも、嬉しさも感じている。


「本当に強かったし、一番気合も入ってたし、最後まで諦めないところもかっこよくて……」


 そのテンションから、言葉を紡ぐ度に少しずつしおらしくなっていく。


 そして、極めつけはその一言であった。


「なんか、一目惚れしちゃったかも……」


 脳味噌が、ぐわんぐわんと揺れていた。


 顔を赤らめる穂香も可愛い……。

 ……じゃなくて、穂香がテレビの前の高校生に一目惚れ?


 …………ゑ?


 穂香が、恋……? しかも、相手は二次元じゃなくて三次元……?


「……大丈夫?」

「大丈夫じゃないよぉ……」


 え、可愛い……。


 ……じゃなくて!


「いや、相手は会ったこともない人なんだよ!」


 思わず声を荒らげてしまった。


 私は心配なのだ。穂香が悪い男に騙されないか、いや、それ以上に、穂香がぽっと出の男に取られないか、心配でしかないのだ。


「わたしも、変だと思うよ……。相手が誰であれ、恋に落ちるだなんて……」


 確かに、それもそうだ。穂香が恋に落ちるだなんて、全然ピンとこないのだ。しかも、三次元。


「雫は、どう思う?」

「えーっと……」


 私は答えられなかった。


「雫は、恋とかしたことある?」


 私はまた答えられなかった。この長い長い片思いを、穂香にだけは気づかれるわけにはいかないのだ。

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