犬を連れて散歩される方へ

yasunariosamu

第1話

犬を連れて散歩される方へ

◯必ず引き綱をつけ、犬を放さないでください。

◯犬の糞は、すぐに始末し必ず持ち帰って下さい。

以上のことが守れない方はの散歩はお断りします。



「これだけでいいと思いますか。」

「と、おっしゃいますと?」

「『守れない方の散歩をお断りする。』それだけで、上の二つの行為が防げるとでも思っているのかということです。」

「二つの行為というと、犬を放すなということと、犬の糞をすぐに始末しろという二点のことですかな?」

「まさにそうです。」

「はあ。二つの行為ができなければ、散歩ができないのだから、二つの行為をする人間は散歩をしないということですよね。ならば、二つの行為をする人間がいないということだから、それで十分なのではないですか?」

「いやいや、ここで私が問題にしているのは、二つの行為をしているにもかかわらず、散歩をしている人間がいるのではないかということです。」

「そんな、ひどい人がいるんですか?」

「私も、見たことはありません。でも、いないとは限らないでしょう。」

「いるかどうかも見たこともない人間の行為を心配する必要がありますかな?」

「ないとも言えないでしょう。実際やる人間もいるかもしれない。」

「実際やる人間がいたら、その場で注意すればいいじゃないですか?」

「注意しても聞かない人間もいるかもしれません。」

「そりゃ、一人もいないとは言えないですが・・・」

「そうなんです。だからここは、『死刑に処します。』とかの強いメッセージを出す必要があると思うんですな。」

「いやいや、上にあげた二つの行為をしただけで死刑は無理でしょう。そもそも我々に、人を死刑にする権限はありませんよ。」

「すみません。話しをわかりやすくするため極端な例を挙げました。」

「勘弁してください。びっくりしますよ。」

「ですね。ここは、一万円もらいますとか。ぐらいにしておいた方がいいでしょうな。」

「一万円ですか?」

「そう、一万円です。千円でも、十万円でもなく一万円です。」

「まあ、千円なら払う人もいるかもしれないですし、十万円なら初めっから払わないと決めてしまうかもしれません。払わないといけないと思わせるにはちょうどいい金額かもしれません。でも。」

「でも、なんです?」

「どうやって取るんです。もらった一万円はどうするんですか?そんな金をもらっても困るでしょう。」

「困りますか?」

「困りますよ。自分のポケットに入れるわけにはいかないし、ここの管理人に預けるには、土日はダメですし、朝も9時になるまで来ませんよ。その間、ずっと持っとくんですか?思わず使っちゃいそうです。使っちゃたら横領とかになるんじゃないですか?」

「正義を執行しているんです。そんなことにはならないでしょう。」

「本当ですか?」

「ちょっと、こんなとこで粗相しちゃダメでしょう。」

「え、なぜです?」

「今我々は、どう正義を執行するかという話をしてるんですよ。そんな我々が、真っ先に決まりを破るようなことをしてはいけないでしょう。」

「決まりって言ったって、私たちは犬じゃないし犬も連れてません。関係ないでしょ。」

「いやいや、こういう決まりは、決まりが決められた意味の深いところを考えないと。」

「深いところですか?」

「そう、この看板は、多くの糞害に悩んだ管理者の責任感というか、怨念の結晶だと思うのです。だから、それを糞で汚す行為はあってはならない。」

「それをいうなら、その前の条項も問題でしょう。あなた、繋がれてますか?放されてますよね。」

「いやいや、我々は繋がれて生きる生き物ではないでしょう。そんな無茶言ってもらっちゃ困ります。」

「いやいや、あなたこないだ、面白半分に子供をつついてたでしょ。それこそ、看板を設置した人の悩みに寄り添ってない行いだと思いますが。」

「あれは、アイツが私に石を投げたからですよ。アイツらこそ鎖に繋いでおくべき生き物です。」

「もう何を言ってるかわかりませんな。こんなくだらない議論をするくらいなら、田んぼに行きませんか?そろそろ、人間どもが働き始める時間です。奴らに追われた、カエル達が、ゾロ出てきますよ。」

「もう、そんな時間ですか。それは急がないと。」


そう言って、二羽のカラスが、糞をして飛んだ。

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