第53話 不安
朝から星2ダンジョンの1階層を攻略して、昼には7階層まで来たので昼休憩をする。
「あ、僕、お弁当作ってきたんです」
「お、マジか?ありがとうな」
と渡してくるので開けるとウインナーや卵焼きと家庭的で普通の弁当だ。
何年振りだろうか、人の手作り弁当なんてな。
「美味いな!料理得意なのか?」
「はい、お母さんに習ってますから」
「そうか、ありがとな」
と2人で弁当を食って一休みしたら10階層まであと一息だな。
「てぇい!!」
ハンマーを軽々と振り回すシオンは、やはり鍛冶士のスキルで槌術が使えるようになってから戦力としても十分だ。
まだ15時なのに10階層に到着した俺らは休憩してから扉の中に入る。
ナツメとマー坊と来たのが懐かしいな。
普通の扉だからゴルアークだ。
「ガォォォオォォ」
とサーベルタイガーのような見た目のモンスターが目の前で吠える。
「いきます!」
「よし、フォローはする」
「はい!おりゃぁぁぁ!!」
とやはり横から振り抜くが、そう簡単にはいかない。ゴルアークはハンマーを避け、後ろに下がると突進してくる。
ハンマーはやはり大振りになるので隙ができるからな。
「おりゃぁぁぁ!」
フォローしに行こうとしたが、ハンマーの重さを利用して回転を速める。
“バゴンッ!”
とハンマーはゴルアークの頭にめり込むと回転して床に頭から落ちる。
そのまま消えて行くとドロップの牙と魔石がそこに落ちていた。
「あ、あははは!やるな!シオン」
「はい!やってやりました!」
とハイタッチでシオンと喜び、ドロップを拾う。
「宝箱だ。罠はないから開けてみろ」
「はい」
開けると中には金貨が10枚と召喚コインが入っていた。
「これは?これだけ違いますね」
「金貨とは違うぞ?召喚コインはそこに載ってるゴルアークを召喚できるコインだ。いざという時のために持っておくと良い」
「へぇ、そうなんですね。大切にします」
とマジックバッグに入れる。
「金貨は一枚10万だから、それだけで100万だな」
「え、ええー!大金じゃないですか!」
「やったな!親孝行すればいいさ」
「はい!」
と嬉しそうなシオンとモノリスを使ってギルドに戻る。
換金して100万は現金で貰うシオン。
親に渡すのだろう。
着替えて合流すると、
「たまには家でゆっくり食べな?」
「はい!分かりました。ありがとうございます」
「おう、それじゃあ送っていってやるよ」
「あ、はい!」
と車で送ってやる。
ギルドから歩いて30分はかかるだろう住宅街に家があるらしくそこで下ろす。
「ありがとうございました」
「おう、じゃあまた明日な!」
「はい!」
ともう赤く染まる空を見て、これから親に報告するんだろうと思うと俺の顔もニヤけてしまう。
帰り道にコンビニに寄ると、ミズノと出会う。
「私はパーティー組みました!絶対あなたより上に行ってみせる!」
「あはは、そっか、良かったな」
「く、くそ!バカにして!」
と走って行ってしまう。
馬鹿にした気はないが、アイツの持ってる袋には大量の飲み物が入っていたみたいだし……大丈夫か?
「何事もなければいいけどな」
少し不安になるが、いい大人だ。
俺が気にすることではない……よな。
俺はコンビニで買い物してから新宿までいくと『Monica』で革鎧とブーツを買っておく。
流石にあのくたびれた革鎧と市販のブーツじゃこれからが大変だからな。
マンションに帰るとカグヤから電話だ。
「よぉ、昨日はなんか怒ってたな?」
『はぁ、まず話すのがそれ?』
「あはは、昨日シオンと定食屋で見てしまったからな」
とビールを開けてソファーに座る。
『最近、特に酷いのよ。まぁ気にしてたら疲れるだけだしね』
「まぁな、で?どうした?」
『シオンはどう?ちゃんとやれてる?』
やはり気になるようだな。
「あぁ、今日は星2ダンジョンのーー」
と30分ほど喋り、問題ないことを伝えて電話を切る。
「ふぅ、カグヤも心配しすぎだな」
まぁ、生産職だからってのもあるだろうけど、鍛冶士は槌術を使えるようになれば自分でレベルアップできるみたいだし……って、そこまで1人では行けないのか。
なんとも言えない気持ちになるな。
とは言え、生産職全般がそうとは限らないわけだが、どれだけの職があるんだ?
ネットで検索してみると、数え切れないな。
鍛冶士も枝分かれしているようだし、それ以外も多種多様だな。
シオンは鍛冶士と言う職で良かったな。
「鍛冶は鍛冶でまとめてくれよな」
神様も細分化しなくてもいいのにな。
スマホは置いて合成部屋に行くと、今日買ったものを『合成』していく。
俺の手の届く範囲で、もし頑張ってる奴がいたら手を貸してやってもいいな。
たかが知れてるが、そんな風に思ってもいいだろ。
もう暗くなった空を見ながらふと思う。
ミズノに今度あったら話をしてみよう。
アイツもアイツなりに頑張っているみたいだけど、危なっかしいからな。
「ふぅ、何事もなければいいが」
コンビニで見た後ろ姿が不安にさせる。
ベッドに横になる。
寝付きが悪いが潜り込んで目を閉じる。
結局、朝までうつらうつらしてベッドからリビングに行き、ブラックコーヒーで目を覚ます。
テレビをつけるとニュースで探索者学校の生徒が重症で犯人は捕まっていないと報道していた。
すぐに次の話題になり、冬のイルミネーションの特集に変わると、ぼんやり見ていた俺はそんな報道のことは忘れてクリスマスかぁ、と思考がそちらに移ってしまう。
さて、目が覚めてきたとこで、コーヒーを飲み干してシャワーを浴びるために立ち上がる。
その日からミズノを見ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます