第15話 社長


 一週間は長い様で短い。

 俺は『tortie』の駐車場に来ていた。


 あの後、ツネから聞いたが、社長はミスリル製品を作った者を離すなと店長に言い、確実に買い取れる様に全権限を店長に委ねていた様だ。

 属性武器の価値を見誤った店長は取り敢えず現在のミスリル製品より高い額を提示すれば良いと思って俺から製品を買い、すぐに海外にいる社長に連絡すると値段を知らない社長は喜んで海外の本店に送る様指示を出した。

 本店では、その素晴らしい属性武器にあの値段をつけて有名クランに紹介した。

 

 それが日本をはじめ世界中に『tortie』ブランドの名を広める事になり、ツネの耳にも入ってきたと言うわけだ。


 怒ったツネは店長に連絡をさせ、社長に直談判し、この事を知った社長は大慌てで日本に来て、それが今『tortie』にいる事につながる。


「よぉ、少し痩せた?」

「そりゃ痩せもするさ、12億だぞ?お前から買った1億8000万のミスリルスピア。差額だけで10億2000万、俺だったらもう売りにこないからな」

 と駐車場でツネと話す。

「まぁ、俺もさすがに無いな、とは思ったけどさ」

「だろ?ちゃんと社長に聞けばよかったんだよ。まぁ、近くにいた俺も価値を知ったのはお前と同じでニュースだけどな」

「ハハッ!ツネにも分からないなら店長が分からなくてもしょうがないか」

「笑い事じゃ済まないんだよ、これから『tortie』の製品に求められるのが、そのクオリティーだからな」

 と言われて、まぁ、それを求めて買いにくるだろうなと思った。


「だから直談判した時に社長に褒められたよ」

「ほぅ、それは良かったじゃないか!」

「あんな武器を作れるのはブラックスミスと呼ばれる有名な鍛治職人でも無理なんだからな」

「そっか、まぁ、ここで話をしててもしょうがないし、中に入るか」

「だな!」

 と笑いながら2人で店に入ると、

「この度はすいませんでした!」

 と店長が土下座していた。

「お、おぅ、、、頭を上げて下さい」

「は、はい」

 と窪田店長はやつれている。

「あはは、まぁ、最初は俺もその値段で納得したんですからお互い様ですね」

 そう、俺も安いと思いながらも納得したんだ。

「そう言っていただけると」

「ならん!職人に対する態度がなっとらん!」

 と後ろから出てくるのは背の低いお爺さん。


「は、はい!」

 窪田店長は杖で小突かれ背筋を伸ばしている。

「本当にわしの孫が不出来ですまなかった。この通りじゃ」

「お、お爺さん!頭を上げて下さい!」

 お爺さんは頭を下げているので起こす。

「わしが『tortie』の社長の森虎徹モリコテツじゃ」

 と名刺を出してくるので両手で受け取り、

「そうでしたか、失礼しました。私は里見瑠夏と申します。名刺は持っておりません」

 まさかのお爺さんが社長とは。


「ここではなんじゃからあちらに行こうか」

「はい」

 と商談スペースに対面で座り、店長とツネが立ったままだ。

「改めて申し訳なかった。敏夫にはもう一度本店でしっかり教育する。この店舗は榊原、お前が店長だ」

「はい!」

 とツネは元気よく返事をする。

「へぇ、店長ねぇ?できるの?」

「はい!頑張らせていただきます!」

 とさすがに社長の前じゃいつもの調子は出ないか。


「あっはっは、わしより友人を揶揄うのか?」

「私はツネ、榊原がいるからここに卸しに来ているだけですからね。それ以外のしがらみはありませんし」

「ほぉ、流石、一流鍛治士は違うのぉ」

 となにやら勘違いしてる様だ。

「私は鍛治士じゃありません。まぁ武器を作ったのは私ですが」

「ふむ、レアジョブの持ち主か。良き友を持ったのぉ、榊原」

「はい」

 へぇ、ジョブを聞いて来ないんだな。

「ギルドカードを貸してもらえるか?」

「ん?はい」

 とカードを渡すと、

「なんと、星2とは。末恐ろしいのぉ」

 窪田店長に端末を借りてカードを読み込ませている。

「ギルドカードを返す。この中に50億入れたので今回の事は水に流してもらえるか?」

「はい!50億ですか?もらい過ぎな気が」

「謝罪も含めてじゃ、これからもよろしく頼む」

 とまた頭を下げている。店長もツネも頭を下げて待っている。

「はい、どうせ売るなら友達のところの方が良いですからね!」

「ありがとう!」

 頭を上げクシャリと笑う森社長。


「あ、そうだ。製品を持ってきているので社長に頼んでも良いですか?」

「ほう、、、わしでよければ」

「ありがとうございます。では」

 ツネが素早くベルベットの布を敷く。

「ミスリル製品になりますが、属性武器になります」

 と言ってマジックバッグからミスリルソード(水属性)スピア(火属性)アックス(風属性)片手剣(土属性)を並べる。


「そ、それは幻のマジックバッグか!まさかこの目で見る事になるとは」

「あはは、結構便利ですよ?」

「……あっはっは!便利と来たか!それを持っとるのは星5冒険者2人、まぁ有名じゃな!」

 一瞬キョトンとした社長は笑いながら言う。

「へぇ、星5の人でも2人ですか」

「あぁ、それでは見せてもらうぞ?『鑑定』」

 社長は『鑑定』を持っているようで、じっくりと見ると、

「ソードは10億、スピアも10億、アックスが12億、片手剣は7億でどうじゃ?」

「アックスが高くて片手剣が安いのは何故ですか?」

 需要かな?

「アックスは有名な探索者、ケビンが使っておるので有名じゃ、しかも風属性ならあいつは食いつくからのぉ。片手剣は土属性じゃから需要がイマイチじゃ」

「へぇ、勉強になります」

「で?これを売ってくれるか?」

「はい、もちろんです」

 またクシャリと笑いカードを受け取ると端末を操作して入金してくれる。

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