第12話


 リィルを助けてからややあって、私達は王都に向かっていた。

 もちろん子供達も一緒だ。

 可愛らしい子供と旅が出来るとなって、私はルンルン気分だった。


「リリシア様、何か良いことでもありました?」


 私の右手を握っていたリィルが、不思議そうに私の顔を見上げてくる。

 なんとも可愛らしい。

 思わず空いた手で頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに目を細めていた。


 リィルの呪いを祓ってから、私達は改めて王都を目指す事になった。

 唯一クロスは不満そうだったが、モモイは何故か最初から私のことをある程度信用していたようだし、クリムもブルムも空腹には勝てないと私についていくと明言した。

 また、リィルもあの一件以降、まるで付き人のように私のそばを離れなくなった。恩に感じてくれているのか、とにかくべったりだ。

 というわけで多数決で四対一。子供達の中で私について行くという意見が過半数を占めた。結果今に至る。

 子供王国の政権を奪取されたクロスは更に不満そうだが、どちらかというとリィルを取られた方が納得していなそうだった。まぁ取ったというか、私は呪いを祓ってやっただけなのだが、そうはいっても現状こうなってしまっているのでクロスは面白くないのだろう。

 彼の気持ちも分からなくはない。いつも遊んでいる子が、いきなり転校生と遊ぶようになって放置されたら、誰だってモヤモヤするはずだ。

 クロスが感じているのも、似たような感情だろう。

 もっとも私の方は別に彼のことを拒絶しているわけではない。当然だが、クロスのことも可愛くて大好きだ。

 なので是非とも私の空いている方の手を取って、子供サンドイッチされたいところなのだが。


「……」


 まるで親の仇のように睨まれている。

 解せぬ。

 いずれはクロスとも仲良くしたいものだ。

 ずいぶん先になるかもしれないけど。

 とはいえいつまでもこの子達の面倒を見られるとは思えない。

 子供達のことを考えると、ちゃんと彼らに愛を注いでくれる親を探して、その人達に預けた方がお互いのためだろう。

 いい里親が見つかると良いんだが……中々見つからないのは、経験上よくわかっていた。

 難しいところだ。


「ねぇねぇ、ご飯まだ?」


 リィルと反対側から私に声を掛けてきたのは、素直で可愛らしいクリムだ。なんとも情けなくてヘニャヘニャした顔でお腹をさすっている。

 かわいい。

 クリムは本当に分かりやすい子で、リィルが私に気を許した途端、「俺も俺も!」と話しかけてくれるようになった人懐っこい子である。好奇心旺盛で、元々私に興味があったのかもしれない。可愛らしい。

 弟のブルムの方はそれほど私と話してはくれないが、兄弟ということもあり、兄が私と話していると混じってくることもある。

 その時の二人のやりとりが兄弟らしくてとっても微笑ましいので、この子達が別れるような状況にはしたくないなと思っていた。


「はい、ブルムと半分こにしてね」


 背負った鞄から昼食用のパンを手渡すと、クリムはブンブンと首を振ってかぶりついた。

 半分にしろと言ったのに……と思ったら、そのまもぐもぐと大口を開けてパンを半分口に含むと、隣を歩いているブルムにあげていた。

 ブルムは頷いて、兄とは全く違う食べ方でモソモソと胃に詰め込んでいる。こっちはこっちでかわいい。


「モモイは? お腹空いてる?」


「大丈夫です!」


 元気いっぱいの末っ子モモイは、先頭から振り返ってぱっと両手を広げると、そのまま更に街道を走って前に行ってしまう。

 いっそ休憩にしてお昼ご飯にしようと思ったが、子供達は元気だ。そんなに急ぐ必要があるわけでもないので、ゆっくりしても良いのだが、特に疲れた様子も見せない子供達を見ているとまだまだ大丈夫そうだ。

 ……もちろん彼らの身体が、少ないエネルギーで動けるように作り変えられているからだとは思う。これくらいの年代の子供達なら、一、二時間も歩けば疲れ果ててしまう気がするが、朝から昼時まで歩き通しでも、ほぼ疲労は見られない。

 クリムだけは空腹を訴えているが、逆に彼の方が五人の子供達の中では異質だ。単純に食いしん坊なだけだろうか。よく分からない。


「リィルも言ってね。そんなに急いでいないから、いつでも休憩にしましょう」


「はい。リリシア様こそ、疲れたら言ってください」


「ふふ、ありがとう」


 なんてかわいい。

 理想の娘だ。

 可愛すぎて何回でも撫でてしまう。

 リィルもリィルで、特に拒絶することなく受け入れてくれるので、なんだかこれだけで無限に体力が湧いてくる。

 はー、癒される。


「……」


「……」


 そんな私たちを、後ろから歩く二人がじっと見つめていた。

 クロスとケイルだ。

 あそこだけ別のパーティみたいに距離を離してついてきている。おかげで声も掛けずらい。

 クロスは言わずもがな、いまだに私を信用していない。友達も取られて大変ご立腹だ。


 ではケイルはというと、何やら私にご不満な様子で、こちらもまた私から距離を置いている。


 なので、恐らく二人とも私と距離を取るために、結果としてあの二人だけ逆に仲良さそうにペアで最後尾についていた。


 クロスの方はしょうがないとして。

 ケイルはどうしたものか……。

 彼女の問いに対する答えが出ていない。

 私はこの子達に責任を取る必要があるらしいのだが、正直言って全くわからない。

 というかそもそもケイル自身もちゃんと理解しているのかも怪しい。

 でも、仮にケイルがきちんとした答えを持っていないとしても。

 恐らく私自身の言葉で、彼女を納得させないとならないのだろう。

 これについては厄介な女騎士だと思うよりも、ありがたいと感じる。

 彼女はまだ、私の過ちを過ちと指摘して、そして答えが出るまで待っていてくれているのだ。

 つくづく良い友達を持った。


 王都までは残り一週間程度の距離だ。


 その後のことは、ひとまず先輩聖女のマリアに相談するつもりだ。

 子供達の事を相談して、まずは彼らの身体のことを調べてもらう。

 その後は元の身体に戻せるのか調査しつつ、『魔化兵士』を作った組織のことを探る。教会にまで手を伸ばしているとなれば、操作は難航するやもしれないが……それでも、これ以上リィル達のような子供を増やしてはいけない。早急に手を打たないと。


 聖女の仕事も大事だが、こちらの方が重要度は高い。どうにかしてマリアと共に対処するつもりだ。

 とはいえ規模の程は分からないし、国の中枢に絡んでいてもおかしくはない。

 この国は魔力方面にはあまり明るくない。周辺諸国のり魔力の研究は一歩遅れている。

 なので他国のスパイか何かが王国内で自国ではタブーの研究を進めている……が今の所の大まかな予想ではある。

 本当のところは……まぁもちろん現段階では不明だ。

 なんとなくあまり良い結末にならないとは感じているが、無視してこのまま子供達が無邪気に改造されまくるのももちろん見逃せない。

 許してはおけない。

 子供達は私が守る。


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