ススキに似た穢れ

四季式部

2024年10月19日 14時29分04秒04

 私には妻子がいる。幸せだと思っている。今週も私の好きな神社巡りに付き合ってくれる二人を乗せた車はとある県に着いた。海なし県であるその土地は山を祀る有名な神社がある。そこに向かったのだ。


 民家が点々となり、山間部になっていたといったところで大きな鳥居が見えた。私は確認して近くの駐車場に車を止めた。土曜日だからであろう。駐車場は車とバイクで埋め尽くされていた。


 娘の手を繋いで三人で大きな鳥居へと向かった。綺麗に整備された参道を歩く。「パパ~あれなぁに~」指さした方向を見るとススキが秋を思わせるように咲いている。「あれはススキっていう植物だよ」私が言うと娘は「植物って人みたい」と笑った。天使だと思った。


 参拝をし、帰りもその場所を通った。参道が遠かったこともあり、帰り道の途中から娘は私の背中でだらんとしている。「ほら! ススキだよ」妻が指を指したが、娘は腑に落ちない顔をしてそのまま私の背中に埋めた。


 出発して少しすると妻が驚いたように娘を呼んだ。ミラーで後ろを確認すると娘の手に何かがあった。「その石神社から持ってきちゃったの? 」聞いても娘は知らないと言うばかりだった。私はまだ近いからと石を戻すことにした。戻ろうとすると娘は泣きだした。子供特有の駄々とは違う気がした。


 駐車場に着く頃には娘は寝てしまっていた。妻が娘から石を取ろうとしたが、力が強いらしく石を取れなかった。仕方なく私が取ろうと手を伸ばすとむくりと娘は起き上がり「俺がこの子にあげたんだよ」と野太い声で声帯を揺らした。


 私と妻が目を見合わせていると娘は目を開けて「私この石いらない」と妻に渡した。渡された石を見ると二つに割れてしまっていた。私は石を受け取るとススキの近くに戻した。ふと視線の端にススキとは違う黒い影を見た気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ススキに似た穢れ 四季式部 @sikisikibu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ