第2話 知らない恋人

翌日、病室のドアが開いた。


背の高い男性が入ってきた。優しそうな顔立ちで、手には花束を持っていた。


「春菜」


彼が私の名前を呼んだ。


「俺のこと、覚えてる?」


首を横に振った。


「ごめんなさい。覚えてなくて」


彼の顔が、一瞬曇った。でも、すぐに笑顔を作った。


「そっか。医者から聞いてた。記憶、なくなっちゃったんだよね」


「あなたは...?」


「俺は、修一。君の恋人...だった人」


だった人。その言葉が、妙に重く感じられた。


「座って。色々、聞きたいことがあるの」


修一は椅子に座った。


「俺たち、いつから付き合ってたの?」


「半年前から。出会いは、カフェだった」


修一は話し始めた。二人で行った場所のこと、デートのこと、楽しかった思い出。


でも、私には何も思い出せなかった。


「ごめんなさい。何も覚えてない」


「いいよ。無理に思い出さなくて」


修一は優しく笑った。


「でも、諦めないから。もう一度、春菜に俺のこと好きになってもらう」


その言葉に、胸が締め付けられた。

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