灰色
志に異議アリ
空は今日も灰色
この空は、今日も灰色だ。
息をしても、何も感じない。
人混みの中で、笑う声だけがやけに遠い。
駅のベンチに座って、缶コーヒーを手にしていた。
ぬるくて、甘くて、やけに人間くさい味がした。
―――もう、いいか。
そんな言葉が喉の奥まで上がってくる。
そのとき、横に腰を下ろした中年の男が、ぼそりと呟いた。
「天気、悪くなると思って傘持ってきたのに、降らねえんだよな」
見上げると、雲の切れ間から少しだけ青が覗いていた。
「……降ってほしかったんですか」
「うん。雨が降ると、なんとなく自分が許される気がすんだよ」
意味がわからなくて、少し笑ってしまった。
男も、口の端をわずかに上げた。
「まあ、天気も人生も、思った通りにはいかねえな。でもさ」
彼は立ち上がって、空を見上げた。
「灰色ってさ、白と黒の“途中”だろ?
途中でやめたら、もったいないじゃん。」
そう言って、改札のほうへ歩いていった。
足元に落ちたひと雫。
いつの間にか、本当に雨が降り始めていた。
傘を持っていなかった私は、立ち上がる。
冷たい雨が頬を打つ。
でも、さっきよりは少しだけ、生きている感じがした。
―――途中でいい。
終わらせるのは、いつだってできる。
だからもう少しだけ、見届けてみよう。
この灰色の空が、
どんな色に変わるのかを。
灰色 志に異議アリ @wktk0044
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