第八話:組織の誕生と、推しとの新たな関係
図書館の地下遺跡から戻った俺は、疲労困憊だった。レベル32の身体でも、魔族幹部との戦闘は消耗が激しすぎる。特に、詠唱破棄による魔法連発は、MPと精神力をごっそり削っていた。
応接室で待っていたディートハルト副団長は、生還した俺たちを見ると、その場で跪いた。
「ルーク様、カイト様! ご無事で何より!」
「副団長、俺の言った通りだ」ルークは、興奮した面持ちでディートハルトに報告した。「カイトの知識は本物だ。地下に魔族幹部が潜んでいた。そして、カイトの指示通りに動かなければ、俺は敗北していた」
ディートハルトは深く頭を下げた。 「……カイト様。貴方の未来予知は、王国を救いました。そして、長年の友であるルーク様の命も救っていただいた。騎士団として、心より感謝申し上げます」
「感謝は必要ありません。その代わり、俺の指示に従ってください」俺は正直に言った。「俺の目的は、王国の救済ではありません。ルナリア・ヴァルシュタインの安全確保、ただそれだけです」
ディートハルトは顔を上げた。 「承知いたしました。これより、銀の翼騎士団は、裏切り者である騎士団長を炙り出すため、そしてルナリア嬢の護衛のため、カイト様を『影の軍師』として迎え入れます」
そして、彼はルークを振り返った。 「ルーク様。貴方は、騎士団長が不在の間、実質的な騎士団の指揮権を掌握してください。そして、カイト様と共に、ルナリア嬢を影から守り抜くのです」
「任せろ」ルークの顔には、もう傲慢さはない。あるのは、使命感と、弟への絶対的な信頼だった。
俺は、ルークに向かって言った。 「兄さん。まず、魔族幹部の情報漏洩元を探ってください。ドレイヴンは、どうやって王都に潜伏できたのか。そして、王都図書館の地下通路を知っていたのは、騎士団長以外にもいるはずです。特に魔術師ギルドに注意してください。あそこには、怪しい人間が多い」
「魔術師ギルドか……わかった。すぐに調査班を組織する」
これで、俺一人では手が届かなかった王都の組織力が、すべて俺の知識の下に組み込まれた。 推しを救うための**「カイト軍団」**が、今ここに誕生したのだ。
その日の夕方、俺は学園の寮ではなく、アークライト家の王都別邸に戻った。
ルークは別邸の使用人たちを集め、俺の新しい立場を宣言した。 「カイトは、今後アークライト家の『特別顧問』とする。彼の指示は、父上の命令と同等に扱うこと」
使用人たちは驚きと戸惑いを見せたが、ルークの厳しい目に従った。
俺は自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。 肉体的な疲労はもちろんだが、一日で騎士団の副団長と兄を説得し、魔族幹部を撃破した精神的な消耗は計り知れない。
「(次のイベントは……『魔術師ギルド襲撃』だ。ルナリアが魔力暴走を疑われ、ギルドに連行されそうになる)」
原作では、魔術師ギルドの人間も騎士団長と通じており、ルナリアを魔族の手に渡すための準備をしていた。 だが、その前に、ルナリアとの関係をさらに確固たるものにしなければならない。
コンコン。
ドアがノックされた。
「誰だ?」
「カイト様、わたくしです。ルナリアです」
俺は驚いて飛び起きた。 まさか、ルナリアが別邸にまで来るとは思わなかった。
慌ててドアを開けると、そこには制服姿のルナリアが立っていた。彼女は不安そうな顔で、小さな包みを両手に持っている。
「どうした、ルナリア。なぜここに?」
「わたくし、カイト様が騎士団の方々と行かれたと聞いて、心配で……。お顔を拝見するまで、落ち着かなくて」
彼女の顔は真剣そのものだった。彼女にとって、俺はもう単なるクラスメイトではなく、唯一の心の支えになっているのだ。
「ああ、大丈夫だ。無事に用事は済んだ。心配かけてすまない」
ルナリアは安堵の息をつき、持っていた包みを俺に差し出した。
「これ……わたくしの母の従者が作ってくれたものです。貴方が、あまり食事をしていないように見えたので……」
包みの中には、焼き菓子が丁寧に詰められていた。
「こんなことまで……ありがとう、ルナリア」
「カイト様。貴方は、わたくしを『無理するな』と言ってくださった。でも、貴方自身が一番無理をしているように見えます。……貴方のあの『知識』は、貴方の体を蝕んでいるのではありませんか?」
ルナリアの直感は鋭い。俺の『賢者の石(偽)』の副作用や、精神的な疲労を、彼女は敏感に感じ取っている。
俺は、彼女に隠し事をするのはやめようと思った。 彼女は、ただの『推し』ではなく、俺の共犯者なのだ。
俺は彼女を部屋に招き入れた。
「ルナリア。座ってくれ。……君の言う通りだ。俺の持っている『知識』は、俺の体に負担をかけている」
そして、俺は彼女に、昨日騎士団に話したことの「真実」を、少しだけ伝えた。
「俺が知っているのは、ただの知識ではない。『未来』だ。君が絶望する結末も、騎士団長が裏切ることも、すべて俺は知っていた」
ルナリアは静かに、俺の言葉に耳を傾けた。驚きはしたが、拒絶はしなかった。
「貴方の目が、いつも遠くを見ているのは、未来を見ているからだったのですね……」
「そうだ。そして、その未来を回避するために、俺は君の傍にいる。君の安全こそが、この世界を救う唯一の方法だからだ」
ルナリアはそっと立ち上がり、俺の隣に座った。そして、俺の手にそっと自分の手を重ねた。
「カイトさん。貴方が未来を知っているなら、教えてください。わたくしにできることはありませんか?」
「君にできることは、ある」
俺はルナリアの手を強く握り返した。
「一つ。絶対に俺の傍を離れるな。二つ。君の持っている聖魔力を、恐れないでくれ。そして三つ……俺のことを、誰よりも信じてくれ」
ルナリアは、少し涙ぐんだような瞳で、深く頷いた。
「はい。わたくし、カイトさんだけを信じます。貴方だけが、わたくしを人間として見てくれた」
「ありがとう、ルナリア」
俺は、ルナリアから差し出された焼き菓子を食べた。甘さが疲れた体に染み渡る。
「(この絶対の信頼関係こそが、俺の最強の武器だ。原作では得られなかった絆)」
俺は彼女に、明日からの行動を伝えた。 「明日、魔術師ギルドが君を学園外へ連れ出そうとするだろう。彼らは敵だ。俺は、兄さんと騎士団を動かして、それを阻止する」
ルナリアは一切の戸惑いを見せなかった。 「承知いたしました。わたくしは、貴方の指示通りに動きます」
俺の『推し』は、もう、絶望に打ちひしがれるだけの悲劇のヒロインではない。 俺の知識と、彼女の聖なる才能が結びついたとき、この世界のバッドエンドは、完全に覆るだろう。
その夜。 俺が目を覚ますと、部屋の窓の外、森の奥で、微かな光が点滅しているのが見えた。
「(あれは……!)」
俺は、すぐさまベッドから飛び降りた。 あれは、魔族が通信に使う「闇の灯火」だ。
騎士団長が、王都へ戻ってきた。
予言を外したはずの騎士団長が、なぜこんなに早く?
「(原作の知識だけでは、カバーできない事態が起こり始めた……!)」
俺のRTAに、**「イレギュラー」**が発生した。 俺は急いでルークに連絡するため、部屋を出た。俺たちの戦いは、さらに激しさを増すことになる。
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