田舎者の男爵は相手によって態度を変えてます
茶電子素
第1話 入学
父が亡くなったのは、つい先月のことだ。
十五歳の俺が爵位を継ぎ、領地を守るために王都へ出てきた。
そして今日、王立学園の入学式。
貴族の子弟が集う華やかな場に、俺は筋肉と老け顔を引っさげて立っている。
広間に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが走った。
「誰だあの人……先生?」
「いや、保護者じゃないのか?」
耳に入る声に、俺は胸を張った。
ふむ、俺の威厳がそう見せているのだろう。
十五歳にしてこの風格、恐れ多くて女子が近づけないのも当然だ。
壇上から名前を呼ばれる。
「バルド・フォン・グランツ男爵」
俺が一歩前に出ると、会場がざわついた。
「やっぱり生徒なのか……」
「十五歳で爵位を継いだ人がいるって噂、本当だったんだな」
女子たちは目を逸らし、男子たちは妙に感心したように俺を見ている。
席に戻ると、隣の子息が肩を叩いてきた。
「すげえな、お前。十五で爵位を継いで、しかもその顔……がんばれよ!」
「……うむ、ありがとう」
別の子息も笑顔で言う。
「負けるなよ、そのうちいいことあるさ!」
なぜか励まされるばかりだ。
だが俺は理解している。彼らは俺の背中に希望を見ているのだ。
筋肉と風格に圧倒され、思わず応援せずにはいられないのだろう。
その時、侯爵家の御曹司アルノーが取り巻きを従えて近づいてきた。
「ふん、田舎者め。顔は老けてるし、華々しい学園には似合わんな」
取り巻きが調子に乗って笑う。
「そうだそうだ、筋肉だけのオッサン男爵が」
俺は即座に態度を切り替えた。
アルノー本人には、満面の笑みで卑屈に頭を下げる。
「おっしゃる通りでございます、侯爵家の御子息さま」
だが、取り巻きに向けてはゆっくりと顔を上げ、筋肉を盛り上げながら低く唸った。
「……今、誰に向かって言った?」
取り巻きの顔色が変わり、後ずさる。
「ひ、ひぃっ……」
アルノーが慌てて声を荒げた。
「やめろ!下級の分際で威圧するな!」
俺はすぐに卑屈な笑みを浮かべる。
「失礼いたしました。筋肉が勝手に反応してしまいまして」
下級貴族の子息たちが小声で囁く。
「バルドやるなぁ……!」
「俺たちの代弁者だ!」
肩を叩かれ、握手を求められる。
なるほど、俺はすでに同級生の英雄となりつつあるらしい。
式が終わり、寮へ向かう廊下で女子たちとすれ違った。
彼女たちは俺を見るなり、さっと道を空ける。
「怖い……」
小さく漏れる声が聞こえた……俺は心の中で笑った。
恐怖は恋の入口だ!
誰がそんなこと言ったって?俺が今作った。
俺の筋肉に怯えるその瞳は、
やがて憧れに変わるだろう。時間の問題としか思えん。
さらに別の女子が小声で
「老け顔で気持ち悪い」と囁いた。
俺は頷く。ふむ、俺を意識している証拠だな。
嫌悪は強い関心の裏返し。つまり、もうほとんど落ちている!
男子たちは相変わらず肩を叩いてくる。
「兄貴!」
「頼りにしてるぜ!」
俺は胸を張った。
男子はすでに俺のカリスマに屈した。
女子も時間の問題だろう。
こうして俺の学園生活は始まった。
女子には避けられ、上位貴族には馬鹿にされ、同格には妙に慕われる。
だが俺は知っている。
すべては俺の筋肉と風格に怯えているからだ。
恐れはやがて憧れに変わり、憧れは忠誠に変わる。
まちがいない……
――この学園は、いずれ俺の領地となる!
田舎者の男爵は相手によって態度を変えてます 茶電子素 @unitarte
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