第4話 最寄駅①

僕たち双子はいつも一緒。

家族だし、住む場所も通う場所も同じだし、教室も、委員会も同じだから当然かもしれない。


そして僕は、他人ヒトには視えないモノといつも一緒。


「……」


今日も、いる。


僕たちは通学に電車を使わないけれど、通り過ぎる駅がある。

その駅の近くにある交番の前に立つ駐在さんのすぐ横には、いつも同じモノが立っていた。


最初は人間だと思っていた。

髪が長いワンピース姿の女性に見える。

駐在さんが代わっても毎日同じ場所に同じ女性が立ち続けているから不思議だな、と思っていた。


ある日、いつもの様に立っている駐在さんに声をかける人がいた。

何の変哲もない、たまに見る日常。

その人が女性にぶつかる様に通過しなければ。


僕はその時になって漸く、この女性が視えないモノだった事に気付いた。


どうしてずっとそこに居るのだろう。

交番に何かあるのか。

それとも駐在さんと言う存在に何かあるのか。

気にならないと言ったら嘘になる。


いつの間にかぼうっと見ていたら、兄の手が僕の手に繋がれた。

ハッとして兄の顔を見ると、無表情の中に少しの気遣いを浮かべて僕の様子を伺っている。


「何かに声をかけられたか?」


「ううん」


「なら無視していい。…行くぞ」


「うん」


繋がれた手はそのままに、少しだけ早足になって駅を通り過ぎて行く。


兄は僕が視えないモノに近付くのをく思っていない。

でもそれは視える僕の反応を嫌がっているとか、そんなネガティブな事ではなく、兄の視えないモノに僕が奪われたりしないか心配してくれているのだ。


そんな心配をしてくれるのは、兄だけ。


見える物を素直に曝け出した時もあったけれど、みんな気味悪がって離れてしまった。

両親も態度に出さないけれど、たまに上の空になる僕を扱い辛く思っているのを知っている。


淋しいとは思うけれど、見えない物を共有するのは難しい事だと分かっているから。

今はもう、視えるモノを共有しているのは兄だけだ。


兄だけは、僕を視界を疑わない。

聞いたままを受け入れて、どんな姿かとか、どんな様子かとか質問する。

そして僕にどうすれば良いか、教えて実行してくれる。


だから僕は安心してこの視界せかいの中で生きて行ける。


「…くろ、ありがと」


「当然の事だ」


その当然が唯一である事を、僕は知っている。

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