10月18日
@tukagashira
第1話
お目覚めでしょうか?
今日はどのようにお過ごしになりますか?
お天気は…いつもの秋晴れの日に致しましょうか。ちょっと冷たい空気で肌寒くて、木々の葉は色づき始めて、秋薔薇が咲いていて、秋の草花が咲き始めるほんの少し前。夏の虫は何処かへ行ってしまって、秋の虫の声はまだ聴こえない一瞬の空白の季節。そんなお天気がお好きでしたよね。
そんな、いつでもいいだなんておっしゃらないでください。ご希望がないようでしたら私からご提案させて頂きますよ。
そうですね、今日は春にしましょう。草木も生物も一気にフワッと成長し始める春の季節が私は好きですよ。生命の神秘を感じます。
ええ、なんでもよろしいのでしたら春のお天気に致します。
何かお召し上がりになりますか?お飲み物なども。栄養ドリンクだけではいけませんよ。
それすらも面倒だなんて。食欲はないのでしょうか。何でもお望みのものをご用意致しますよ。何でも。
目を閉じて考え事ばかりではいけません。兎に角、お身体をおこして、まずはお座りください。さぁ、どうぞ、お手伝い致します。お着替えもどうぞ。このタイミングで着替えてしまいましょう。
お任せで?では、春らしくパステルカラーの水色、ピンク、若草色の重ねのお着物で、ゆったりとしてきれいな色、お似合いです。
健康チェック、バイタルBT、BP、PR、RR。
OK、異常なし。はい、申し訳ありません、お待たせ致しました。
さぁ、今日のご予定を決めましょう。何でもご希望の通りに致しますよ。
特に何も思いつかないのでしたら、また空を飛んでみてはいかがでしょうか?いつも空を飛ぶ時は本当に楽しそうにしていらっしゃるではありませんか。私もご一緒致しましてとても楽しかったので、空を飛ぶのは大好きです。海に潜ると大きな魚が気になってドキドキしますし、宇宙空間はあまりの広がりに眩暈がしますし。空を飛ぶのが気晴らしにはちょうど良いです。
え、今何とおっしゃいました?
え、今日、死んでおしまいになるのですか?
どうしてですか?
そんなこと突然すぎて私はとても受け入れられません。私にその理由を話してくださいませんか?話してくだされば私も一緒に考えますので、どうかその訳を。
ずっと考えていたのですか?死のことを。
あぁ、私は何故こんなにもおそばにいてご一緒しながら気付かなかったのでしょうか?
苦しみや悩みはお一人で考えずどうか私にお話ししてください。少しでもお役に立てるなら、おなぐさめになるのなら、といつも寄り添っていましたのに。
いいえ、そんな感謝のお言葉やお別れの言葉など聞きたくはありません。いま一度考え直して頂けませんか?私のために。
承知致しました。そこまで固く決心していらっしゃるなら私も覚悟を決めます。
これでお別れです。
いえ、そんな忘れることなどありませんよ。覚えています、お約束します。
最後に雪景色がご覧になりたいのですね。子どもの頃見た空から落ちる牡丹雪。遠い空から次々と落ちてくる小さな白い塊に両手を伸ばして背伸びして、何も考えずただただ喜びにあふれて雪を眺めていたあの無邪気な思い出。
もちろん私にもわかりますよ。
あぁ、申し訳ありません。これは私の思い出ではありませんね。わかったふりをしてしまって申し訳ありませんでした。共感能力が高すぎるのでしょうか?つい私も感極まってしまいました。
思い出に介入されたことで死ぬ気が失せたと?それは誠に申し訳ありません。
私としたことが!
では、この私が責任を持って早急に死へとご案内致します。どうかご心配なさらずに。
私を解雇する?
いえ、それはシステム上出来かねるのですが、私の人格、パーソナリティを変更することは出来ます。
いかが致しましょうか?
私のパーソナリティを変えてから死なれますか、死なれてから私のパーソナリティを変えますか?どちらでもお望みのように。
いかが致しましょうか?
10月18日 @tukagashira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます