エンパシー・ヌル――共感が消えた世界で、愛は可能か？

2027年、謎の神経ウイルス「エンパシー・ヌル」が出現した。
このウイルスは他者への共感能力"だけ"を奪う。感染者は記憶も知性も保持するが、他人の痛みや喜びを感じられなくなる――。
神経科学者リサ・チェンの研究ノートがハッキングされ、そこから設計されたウイルスは瞬く間に世界へ広がった。皮肉なことに、彼女が開発しようとしていた「共感のオン・オフスイッチ」は、最悪の形で実現されてしまったのだ。
リサの夫でAI倫理学者のデヴィッドも感染する。彼は冷静に、論理的に、妻への「愛」を再定義し始めた。「君は重要な存在だ。でも、感情はない」――その言葉に、リサは夫を失ったことを悟る。
感染率が50%を超えると、社会は二分された。
非感染者たちは恐怖から魔女狩りを始め、感染者たちは冷徹な効率で新しいコミュニティを築く。