母親
カインと出会って20日程が過ぎた夜、アベル王子が眠っていると窓硝子を叩く音が聞こえてきました。
王子は飛び起き転がるように窓に近づいて行かれます。バルコニーにはカインが立っていました。
「カイン! 嬉しいよ。もう来てくれないのかなって思ってた」
アベル王子は笑顔でカインを部屋へと招き入れます。
「……お袋の体調が悪くってなかなか来られなかった」
楽しげな王子とは打って変わってカインは暗い顔です。
「そうなの? 大丈夫?」
以前会った時より明らかに元気がないカインにアベル王子はお焦りになられます。
「この前のブローチを売って、その金で滋養がある食べ物とか薬を買ったけど……もうすっからかんだ」
王宮で不自由なく暮らしている王子はカインの言っていることがいまいちよく分かりません。ですが“お金が必要”だということは分かりました。
アベル王子は宝石箱から金のネックレスと銀の腕輪をお取りになりカインへと押しつけます。
「これでお母様によくしてあげて」
しかし、カインはそれを受け取らず王子を睨みつけます。
「今更お前らからの施しなんていらねーよ」
憎々しげに吐き捨てられ王子は尻込みしそうになられましたが、今回ばかりは引くつもりはありませんでした。
「施しじゃない、これはお見舞いだ。……カインが納得出来ないのなら、ぼくに外のことを語って聞かせて。きみの時間をぼくが買う、それならいい?」
「……お前、やっぱりおかしいよ」
困ったように笑うカイン。
その夜ふたりは明け方近くまでベッドの中で語り合ったのでした。
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