第7話 もう一度だけ
それから一年が経った。優也と私は、遠距離恋愛を続けていた。
簡単ではなかった。会いたい時に会えない寂しさ。電話やビデオ通話だけでは伝わらない、微妙な感情。すれ違いそうになることも、何度かあった。
でも、その度に、私たちはちゃんと話し合った。感情的にならずに、お互いの気持ちを確認し合った。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
そんな会話を繰り返しながら、関係を深めていった。
ある日、優也から連絡があった。
「今週末、会える? 大事な話がある」
少し緊張しながら、週末を待った。
土曜日、優也は私の地元に来た。いつもの海辺の公園で待ち合わせた。
「どうしたの? 大事な話って」
私が聞くと、優也は深呼吸した。
「実は、会社から地方支社への異動の話があって」
「地方支社?」
「うん。この近くに、新しい支社ができるんだ。そこの立ち上げメンバーに選ばれた」
心臓がドキドキした。
「それって...」
「ここに、戻ってこられるかもしれない」
信じられない話だった。
「本当に?」
「まだ確定じゃないけど。でも、もし実現したら、彩花の近くにいられる」
嬉しくて、涙が出そうになった。
「それは、優也にとっていい話なの? キャリア的に」
「わからない。でも、俺は彩花と一緒にいたい。それが、一番大切なことだから」
彼の言葉に、胸がいっぱいになった。
「ありがとう」
「まだ、確定じゃないから。期待させて、ごめん」
「ううん。嬉しいよ。優也が、そう思ってくれてることが」
私たちは抱き合った。
それから二ヶ月後、優也の異動が正式に決まった。来春から、地元で働くことになった。
「本当に、良かったの?」
私が聞くと、優也は笑った。
「良かったよ。これが、俺の選択だから」
五年前、私たちは地元と東京で意見が分かれた。でも今は、優也が自分の意志で、こちらを選んでくれた。
「ありがとう。大切にするね、この選択を」
「俺もだよ」
もう一度だけ伝えたいことがあった。
「好きだよ、優也」
「俺も、彩花が好きだ」
シンプルな言葉だったけれど、それが全てだった。
時間は戻らない。五年前のケンカも、別れも、なかったことにはできない。でも、その経験があったから、今の私たちがある。
後悔を乗り越えて、もう一度やり直せた。それは、奇跡のようなことだった。
これからも、伝えたいことは、ちゃんと伝えよう。ごめんねも、ありがとうも、好きだよも。
そうすれば、もう後悔することはない。
手を繋いで歩きながら、私は思った。人生って、不思議だ。別れた人と、もう一度やり直せるなんて。
でも、それができたのは、お互いが成長したから。時間が必要だったんだと思う。
「優也」
「ん?」
「もう一度だけ、伝えたいことがあるんだ」
「何?」
「もう一度、出会えて良かった」
彼は優しく笑った。
「俺もだよ。もう一度、彩花と恋ができて、本当に良かった」
私たちは、新しい未来へと歩き出した。
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