もう一度だけ伝えたいこと

雨音|言葉を紡ぐ人

第1話 別れた理由

五年前の冬、私は優也と別れた。付き合って二年半。大学三年生の終わり頃のことだった。


別れた理由は、ケンカだった。就活の話をしていて、お互いの意見が食い違って、それがきっかけで大きく揉めた。私は地元に戻って働きたかった。優也は東京で挑戦したいと言った。


「なんで、わかってくれないの?」


私はそう言って、彼を責めた。


「わかってくれないのは、そっちだろ」


彼も怒っていた。


お互いに譲らなくて、感情的になって、言わなくていいことまで口にした。


「もういい。別れよう」


その言葉を口にしたのは、私だった。


優也は黙って頷いた。


「そうだな。その方がいいのかもしれない」


あっさりとした別れだった。引き止められることも、謝られることもなかった。それが余計に悔しくて、私は何も言わずにその場を去った。


それから、連絡を取ることはなくなった。SNSのフォローも外した。共通の友達も何人かいたけれど、彼の話題は意識的に避けた。


時間が経つにつれて、あの時の自分の言動を後悔するようになった。なぜ、もっと冷静に話せなかったのだろう。なぜ、感情的になってしまったのだろう。そして、なぜ、自分から別れを切り出してしまったのだろう。


本当は、別れたくなかった。ただ、意地を張ってしまっただけだった。

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