もう一度だけ伝えたいこと
雨音|言葉を紡ぐ人
第1話 別れた理由
五年前の冬、私は優也と別れた。付き合って二年半。大学三年生の終わり頃のことだった。
別れた理由は、ケンカだった。就活の話をしていて、お互いの意見が食い違って、それがきっかけで大きく揉めた。私は地元に戻って働きたかった。優也は東京で挑戦したいと言った。
「なんで、わかってくれないの?」
私はそう言って、彼を責めた。
「わかってくれないのは、そっちだろ」
彼も怒っていた。
お互いに譲らなくて、感情的になって、言わなくていいことまで口にした。
「もういい。別れよう」
その言葉を口にしたのは、私だった。
優也は黙って頷いた。
「そうだな。その方がいいのかもしれない」
あっさりとした別れだった。引き止められることも、謝られることもなかった。それが余計に悔しくて、私は何も言わずにその場を去った。
それから、連絡を取ることはなくなった。SNSのフォローも外した。共通の友達も何人かいたけれど、彼の話題は意識的に避けた。
時間が経つにつれて、あの時の自分の言動を後悔するようになった。なぜ、もっと冷静に話せなかったのだろう。なぜ、感情的になってしまったのだろう。そして、なぜ、自分から別れを切り出してしまったのだろう。
本当は、別れたくなかった。ただ、意地を張ってしまっただけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます