竜と猫
秋乃月詠
竜と猫
「柿の葉っぱだね」
「柿の葉っぱだね」
「銀杏の葉っぱかな?」
「銀杏の葉っぱだよ」
「やあ、これは紅葉の葉っぱだ、間違いない」
「ああ間違いなく紅葉の葉っぱだ」
「やや、柿でもない、銀杏でもない、紅葉でもない葉っぱが流れてくるよ何の葉っぱだろう?」
「何の葉っぱだろう?初めて見る葉っぱだね、キラキラした葉っぱだね」
田螺と沢蟹が沢の上を流れる葉っぱを見上げて話をしています。
田螺も沢蟹も初めて見る金色にキラキラ光った葉っぱが何の葉っぱなのか知りたいと思いました。
「泥鰌の爺さんに聞いてみようじゃないか」
田螺と沢蟹が石の間を覗いてみますと、泥鰌の爺さんはすっかり眠っていました。
「爺さん、泥鰌の爺さん起きとくれよ」
泥鰌の爺さんは目を開けると田螺と沢蟹を見て言います
「なんじゃ、田螺と沢蟹がワシに何か用か?」
「さっき川の上を柿でもない銀杏でもない紅葉でもない金色にキラキラ光った葉っぱが流れていったのだけどもあれは何の葉っぱだったのか爺さん教えてくれよ」
「ワシはその葉っぱを見てないのでわからないが鳥達なら高いところにおるから知っとるかもしれんの」
そこで田螺と沢蟹は川蝉に聞きました。
「なあ川蝉よ先程金色にキラキラ光った葉っぱが流れていったのだけど何の葉っぱなのか知らないか?」
川蝉は青い羽根を小刻みに羽ばたかせながら言います。
「さあ、私はそのはっ葉を見てないのでわからない、仲間の山翡翠にい聞いてみたらどうだろうか」
「川蝉ありがとう」
田螺と沢蟹は山翡翠に聞いてみました。
「おーい山翡翠よ先程金色にキラキラ光った葉っぱが流れていったのだけど何の葉っぱか知らないか?」
山翡は頭の上の自慢の立派な羽冠をヒラヒラさせて言います。
「さあ私のそのはっ葉を見てないのでわからないよ」
田螺と沢蟹はやっぱりあれは柿の葉っぱだった、いいやあれはアケビの葉っぱだよ、いいやどちらでもない栗の葉っぱに決まっているなどと夜になっても話し合っていました。
月の無い夜の事です。
いつもより星がキラキラと瞬いています。
ハチワレは出窓で丸くなりながら夜空の星を見上げていました。
ご主人のセンセ-は先程まで机に向かい何か書いていましたが今は机の前で仰向けになり大の字でイビキをかいています。
星はキレイですがセンセーのイビキがうるさい夜です。
ハチワレは出窓をそっと開け赤い瓦の屋根に出ました。
西の空には白鳥座、こと座、ヘラクレス座が見えます。
「おーいハチワレ」
ハチワレを呼ぶのは青い目のヨダカです。
ヨダカは赤い瓦の屋根に降りるとハチワレに言います。
山で困った事が起こっているのだよ、朝からずっとだ。
「何に困っているんだい?」
「それが田螺と沢蟹が沢を流れきた葉っぱが何の葉っぱなのかで言い合っているんだ。」
「それはどんな葉っぱなんだい?」
「田螺と沢蟹の言うには金色にキラキラ光っ葉っぱで銀杏でも柿でも紅葉でもないんだと」
「金色にキラキラ光った葉っぱなら私一度も見てみたいものだな」
ヨダカは青い目をキラリと光らせハチワレに言います。
「ハチワレよ、山に来て金色にキラキラ光った葉っぱを見つけてくれないだろうか、そしてそれが何の葉っぱなのか教えてくれないだろうか」
ハチワレは金色にキラキラ光った葉っぱの正体が知りたくなったので喜んで引き受ける事にしました。
ハチワレとヨダカは麓の沢までやってきました。
田螺と沢蟹の言い合いはまだ続いています、ヨダカが田螺と沢蟹にハチワレが金色にキラキラ光った葉っぱの正体を見つけてくれることを伝えるとやっと言い合いを止めハチワレに言います。
「ハチワレさんきっとですよ」
「お願いします。でもあれはきっと栗の葉っぱなんですよ」
ハチワレは沢沿いの小道をゆっくりと歩いて山を登ります。
静かな夜の山には沢の流れる音、虫の声、風にカサカサと葉の揺れる音が心地よくハチワレは交響楽団の指揮者になった気分で髭を振りながら山道を歩くのです。
しばらく歩くと沢の向こうの茂みから小さな話し声が聞こえます。
「金色にキラキラ光った葉っぱだったよ、ホントだよ」
「そんな葉っぱは有るもんか、きっと見間違えたんだ」
「見間違いじゃないよ僕はさっきまで木の上に居たんだ君たちは下に落ちていたから見えなかったけど僕はちゃんと見ていたよ」
小さな話し声の主はどんぐりでした。
丸いのやら長いの、虫苦食われて穴の有るの、大きいのや小さいのが金色にキラキラ光った葉っぱの話をしていました。
「おーいどんぐりよ」
ハチワレはどんぐり達を驚かせないよう小さな声で呼び掛けました。
どんぐり達はハチワレの声に話を止めハチワレを見ます。
「小さな山猫さん何か御用ですか、こちらは今見た通り忙しいのです」
「私は山猫ではなくハチワレと申します、金色にキラキラ光った葉っぱを探して山を登って来たのですがさてそちらのどんぐりさんはどこで金色にキラキラ光った葉っぱを見たのですか?」
まだ頭に小さな笠を着けたどんぐりがヒョイっと石の上に飛び上がり得意気に言います。
「金色にキラキラ光った葉っぱを見たのは私です、ちょうど朝の日差しを殻に当てた時に空から金色にキラキラ光った葉っぱが落ちてきたのです、それから沢に落ちて流れていくのを見ました」
「どんぐりよありがとう」
ハチワレはどんぐりの木から沢沿いの道を外れ険しい獣道を登って行きました。
土は湿り、落ち葉を踏む度にクシャクシャと音がなります
しばらく登ると二匹の栗鼠が洞穴の前で話をしています。
「さっき洞穴の奥がキラキラ光ったよ」
「さっき洞穴の奥で大きないびきが聞こえたよ」
二匹の栗鼠は洞穴の奥が気になって仕方ないのですが入るのが怖くて入り口の回りをクルクル回っているのでした。
「おーい栗鼠よ」
ハチワレは栗鼠を驚かせないよう小さな声で呼び掛けます。
「小さな山猫さん何か御用ですか、こちらは見ての通り忙しいのです」
「私は山猫ではなくハチワレと申します、金色にキラキラ光った葉っぱを探して来たのですが、この洞穴の奥が金色にキラキラ光ったのは本当ですか?」
片方の栗鼠がヒョコっと首をもたげてハチワレに言います。
「ああ本当ですとも、間違いなく金色にキラキラ光りました」
ハチワレは洞穴の中に入ろうとしました、するともう片方の栗鼠が言います。
「さっき大きないびきが聞こえたよ、きっと何か大きくて怖いヤツが居るに違いない、だから危ないから入るのはおよしなさいな」
「栗鼠よありがとう」
ハチワレを止めようとする栗鼠にお礼を言いチワレは洞穴に進みます。
洞穴の中は濡れた岩がゴロゴロ、苔むした岩にゴツゴツした岩、ハチワレは岩の間をくぐり進みます。
時々天井から水がポタリとの顔に落ちてきてハチワレを驚かせます。
岩の間から金色にキラキラと光が差してきます。
ハチワレは光の差す方へ入って行きました、そこは広い空間で金色にキラキラと光り真ん中に大きな金色にキラキラと輝く林檎の木がありましました。
金色にキラキラと光った葉っぱの正体は林檎の葉っぱでした。
ハチワレが金色にキラキラと輝く林檎の木の回りを見惚れて歩いていると急にハチワレを呼ぶ大きな声がします。
「小さな山猫よ」
声の主は大きな首をもたげるとハチワレを見下ろしました。
その姿は背中の頭から長い尻尾の先まで緑の硬い鱗に覆われ口は大きな牙が並びその牙以上に大きな鋭い爪が手と足に光ってます。
それは竜です、大きな竜がハチワレを見下ろしていました。
しかし大きな金色の目は寝起きのためでしょうか眠たそうです。
「私は山猫ではなくハチワレと申します、金色にキラキラ光った葉っぱを探して来たのですがこの林檎の木なあなたの物ですか」
「この林檎の木は夜空の神様の物だ」
竜は続いてハチワレに聞きます。
「ハチワレよおまえはどうやってここまで来た」
ハチワレは洞穴の事、山の獣道の事、沢沿いの道のを竜に話しました。
「ハチワレよ私はここから外に出れるだろうか?」
「竜の大きな体では洞穴からは出られないでしょう」
ハチワレが答えると竜は大きなため息をつきハチワレに言います。
「ワシは夜空の神よりこの林檎の番を任されておる竜だ、実は今非常に困っておる」
ハチワレが竜に尋ねます
「困り事って何ですか」
「林檎の番をしている間に岩が崩れて上の出入口が一枚岩で蓋をされてしまって出れなくなったのだ」
「ハチワレよおまえはワシが外に出れる方法を知らないだろうか、もし出してくれたら金のリンゴをお前にやるぞ」
ハチワレは少し考えましたが竜を外に出す方法が思いつきませんでした。
「竜よ外に出る方法が思いつきませんが森の賢者の大ミミズクの知恵を拝借して参ります」
ハチワレは大急ぎで洞穴を抜け外に出ると山道をどんどん登って行きます。
ほどなく一枚岩のにまで来ました。
「おーい大ミミズクよ」
高い杉の木の枝から大ミミズクが答えます。
「ハチワレよ今日は何の用だ」
「この一枚岩の下に閉じ込められて困っている竜を助けたいのだが良い知恵はないだろうか」
「竜か、ワシには無理じゃが、西の空にヘラクレス座が来ておるヘラクレスは大層な怪力と聞いておる」
ハチワレはそれを聞くと空に向かって叫びます。
「おーいヘラクレス座よ、一枚岩を持ち上げて竜が出るのを助けてくれないだろうか、助けてくれたらお礼に金のリンゴをお前にやるぞ」
ヘラクレス座がキラキラと輝きを増します。
すると一枚岩がズズンズズンと動きました。
ちょうど竜が通れる位のすき間が開くと竜は嬉しそうに天に飛び上がります。
「ハチワレよありがとう、金のリンゴをお前にやるぞ」
そう言うと金のリンゴを1つ落とし夜空に消えるのでした。
「おーいヘラクレス座よ、約束の金のリンゴだお礼にお前らやるぞ」
ヘラクレス座に向かってハチワレは言います。
すると金のリンゴがヘラクレス座のほうに飛んできました。
ハチワレは栗鼠とどんぐりと田螺と沢蟹に金色にキラキラ光った葉っぱの正体が神様の金のリンゴの葉っぱだったことを教えると赤い瓦の屋根の家に帰って行きました。
ハチワレは今夜も出窓のところで丸くなって夜空の星を見ています。
ハチワレは知っています。山の頂上の一枚岩の地下には金のリンゴを実らせる木があることを、そして毎年このきせつになると夜空に竜が姿を現し金のリンゴが無事実っているのを確認すると安心してまた夜空に消えるのでした。
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