最初から雰囲気がすごく良くて、一気に作品の世界に引き込まれました。雨の音とか、朝の冷たい空気とか、化物の気配みたいなものが自然に伝わってきて、読んでいるだけで景色が浮かびます。説明しすぎずに空気で見せてくれる感じが心地よいです。
愁水と嗣巳の関係性もすごくバランスが取れています。べったり仲良しなバディではないのに、会話の端々にちゃんと積み重ねが感じられて、互いに信用しきっているわけではないのに、どこかで相手を放っておけない感じがありますね。
特に「小袖の手」は印象に残りました。怪談としての不気味さがちゃんとあるのに、怖いだけで終わらず、喪失の寂しさとか、言えなかった思いとかがじわっと染みてきて、読み終わったあとにしばらく余韻が残ります。こういう“ひやっとするのに切ない”話がすごく好きなので、かなり刺さりました。京助まわりの話も含めて、単なる一話完結の怪異ではなく、その人の人生や心残りまで見せてくれるのが魅力だと思います。
江戸を舞台に、化物がまだ隣人であり得た最後の時代を描く、情緒と痛みが同居した怪異連作。
絵師・愁水と、彼に憑く鵺・嗣巳の凸凹バディを軸に、呪具・流行神・付喪神など、人の心が生んだ怪異へと踏み込んでいく。
物語の魅力は、怪異そのものよりも怪異を生み出す人間の感情に焦点を当てている点。
愛情、執着、後悔、願い。
それらが形を持ち、化物となり、誰かを救いもすれば傷つけもする。
愁水の優しさと危うさ、嗣巳の冷徹さと不器用な情、そして人間側の登場人物たちの揺れる心。
怪談でありながら、読後にはどこか温かさが残る、人と化物の境界を描いた物語。
続きが気になる、静かで美しい怪異譚です。