第35話 不登校

 昼休み。俺たちは写真部部室に集まっていた。そこに美空ちゃんも来ている。


「美空ちゃん、蓮司は体調でも崩したの?」


 千春が美空ちゃんに聞いた。


「そう言ってますが、仮病みたいです。兄はかなりイライラしているみたいで」


「そうなんだ。大丈夫かな……」


「一条の自業自得だな」


 思わず口に出た。


「でも、休んでるのはやっぱり心配だよ」


 千春が言う。千春はハーレムを抜けたあとも幼馴染みとしての関係は続けると言っていた。だけど、今の一条と関わるのは危険すぎる。


「千春、気持ちは分かるけど、しばらく様子を見たほうがいい」


「……そうだね」


 とりあえず千春は納得したようだ。


◇◇◇


 だが、それから一週間経っても一条は登校してこなかった。


 昼休み、最近はずっと部室に来ている美空ちゃんに千春が言った。


「美空ちゃん、今日、蓮司のお見舞いに行ってもいいかな?」


「それはいいですが……」


 美空ちゃんはチラッと俺を見た。

 俺としても千春が一条の家に行くのはやっぱり嫌だ。千春が何かされるかも知れないし、傷つけられるかも知れない。だけど、千春は幼馴染みを見捨てられないのだろう。


 ――俺も覚悟を決めるか。


「行ってきたら?」


「うん……晴真も来る?」


「俺が行ったら荒れるだろ」


「そうかな。話し合ったら、わかり合えるかも知れないし。何か誤解があるかも」


 まあ、誤解はされているだろうな。俺がハーレムを奪ったと。そこは訂正しておきたい。


「……わかった、じゃあ、俺も行く」


 千春だけでは心配だし。こうして俺と千春は一条の家に行くことになった。


◇◇◇


「ここです」


 美空ちゃんに案内され、俺と千春は一条蓮司の部屋の前に立っていた。

 ドアは固く閉ざされている。


「兄さん、千春さんと黒瀬先輩が来てくれました」


「はあ?」


 部屋の中から一条蓮司の声が聞こえた。


「蓮司、千春だよ。開けてくれるかな?」


「嫌だね。お前はともかく、なんで黒瀬が居るんだよ。俺に見せつけに来たのか?」


「違うよ。晴真も心配してて……」


「そんなわけあるか! あいつが俺を心配する理由は無いだろ」


 まあ、そうだな。心配してきたわけでは無い。誤解を解きたいだけだ。


「千春だけなら入ってもいい」


 そう言われても今の一条のところに千春を渡すのは危険すぎる。俺は首を横に振った。


「晴真も一緒じゃないと……」


「じゃあ、無理だ。帰れ!」


 やはり、入れてくれないか。


「だいたい、黒瀬は何しに来たんだ!」


 一条、荒れてるな。まあ、当然か。俺は呼びかけることにした。


「一条、黒瀬だ。お前、何か誤解してないか?」


「誤解? 何をだ」


「俺がハーレムを奪ったと」


「はあ? その通りだろうが!!」


「違う! 俺はハーレムなんか作りたくない。ハーレムに居るような女子は軽蔑してるからな。自分が作るわけ無いだろ」


「だったら、俺に返せ!」


「ああ、いつでも返してやるよ」


 そう言うと千春が目を見開いて俺を見た。


「言ったからな。約束だぞ!」


「だけど、俺のはハーレムじゃ無い以上、本人たちが戻りたいと思わなければ無理だぞ」


「やっぱり詭弁かよ! 帰れ!」


「違うよ。本当に俺はハーレムはいらないんだ。俺が一緒に居て欲しいのは……一人だけだからな」


「……千春か?」


 しばらくの沈黙の後、一条が聞いてきた。普通なら答えるものじゃない。だけど、俺はつい言ってしまった。


「そうだよ」


 千春がハッとして俺を見た。


「お前は千春だけ居れば、それでいいと言うのか?」


「ああ。そうだ」


「千春のことが好きなんだな?」


「……そうかもしれない」


「ここにきて、まだそんなへたれてるのかよ」


「し、仕方ないだろ。人を好きになった事なんて無かったんだから……」


「ハハ、やっぱり陰キャオタクだな……」


 一条は小さく笑った。だが、その声には怒りよりも、どこか諦めが混じっていた。


「どうやら、俺はお前のことを誤解していたようだ。お前にはハーレムは無理だ」


「そうだよ。だから、お前は明日学校に来い」


「嫌だね」


「蓮司……」


「俺はお前らとなんて一緒に居たくない! 帰れ!」


 そこからは何を言っても反応が無くなってしまった。

 結局、俺たちは帰るしか無かった。



――――――

※本日より一日一話の投稿となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る