春立つ空に。

徒花

第1話

温い風が、私の髪を靡かせる。

そして、淡くて白い花びらと、甘い匂いが私の頬を掠めた。

石置き場には、意気揚々と花弁を散らす桜の木と、白い線に裂かれて二等分された青い空があった。

ふと、私は気づく。

あなたがいない、右肩あたりの空白には、温度をも感じない、爛れた虚空があることを。

本当なんだ。

たかが数センチの余白だけが、漂白されてしまっている。

あなたは今頃、北の方にいるのだろうか?

暮らしには困っているのか。

いまだ雨を愛せているか。

もう、声は出せるのか。

そんな戯言を言っていると、まるで日の暮れのような空模様が一瞬、広がった。

向こうの山の後ろから、煙が出る。

私には、あの街の嘆きが聴こえていた。

だからせめて、あなたに当たらなければいいと。

ただ鴉の泣き声が聴こえる。

そんな日に独りで憶う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

春立つ空に。 徒花 @tenkiame1125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る