追放されたけど実は国一番の魔導書を書いた作者でした

yakko

第1話 追放されたけど、まあいいか

「リオン=グレイ、貴様を魔導師団より追放する!」


石造りの大広間に、その声が響いた。

王国最強と謳われる第一魔導師団。その壇上で、団長が俺を指差している。


……うん、知ってた。

昨日の時点で、机の上の書類が消えてた時点で、ああこれはそういう流れだなって。


「お前の書いた“初級魔導理論書”など、役に立たん。誰にでもわかる魔法なんて無意味だ!」


ざわめく団員たち。

俺が書いた教本──“魔導入門書【基礎からの光属性】”は、弟子たちが使いやすいようにと書いたものだった。


魔法は難しい。

だからこそ、俺はわかりやすく噛み砕いて伝えたかった。

でも、この国では「才能ある者だけが魔法を使える」って思想が根強い。


努力で魔法を学ぶなんて、笑われる世界だ。


「……そうですか。では、辞めさせていただきます」


俺は短くそう言って、団章を机に置いた。

団長は満足そうに鼻を鳴らす。


「当然だ。凡才が王立魔導師団にいること自体、恥だからな」


──ああ、やっぱりこういう人種とは合わなかったな。



数日後。

俺は王都の外れに小さな家を借り、静かに暮らし始めた。


肩書も名誉もない。ただの魔導士見習い──いや、もう見習いですらない。

でも、俺には少しだけ夢があった。


「魔法をもっと、誰でも使えるものにしたい」


だから、追放されたその日から毎晩、紙とペンを握っていた。

“魔導書”を書くために。


難解な理論を捨て、

魔力が少ない人でも光を灯せるように工夫し、

「魔法とは、意志を形にする技術です」ってやさしく書いた。


王国の図書館に寄贈するつもりで、印刷所に持ち込んだ。

小さな本屋に並べばいい。せめて、誰か一人でも使ってくれればいい。


そう思っていたんだ。



──三ヶ月後。


「な、なんだこれ……!?」


町中がざわめいていた。

広場の噴水の前で、子どもが両手を広げると、ぽうっと光が灯る。


「すごい! ぼく、魔法つかえた!」


周囲の人たちが歓声をあげる。

誰もが小さな光を灯して、夜の王都が無数の光粒で満たされていく。


……その時、俺の机の上には、1通の手紙が置かれていた。


『あなたの本、“魔導入門書【基礎からの光属性】”は王国全土で完売しました。

現在、再販希望が殺到しています。著者様、至急ご連絡を──王立印刷局より』


……は?


俺は椅子から転げ落ちそうになった。


「ちょ、ちょっと待て……あの地味な本が!?」



その夜。

酒場では、見覚えのある声が聞こえた。


「おい、聞いたか? “国一番の魔導書”を作ったっていうリオンってやつ」

「まさか、あの追放された書記官だろ? 信じられん……!」


俺は静かにエールを飲みながら、苦笑した。


……別に、ざまあみろとは思わない。

ただ、あの時の団長に一言だけ言いたい。


「“誰にでもわかる魔法”が、一番強いんですよ」


そう呟いて、夜の光に照らされながら、俺はまた新しい魔導書の構想をノートに書き始めた。

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