第17話 愛の論理とブラコンの決着、深雪、最強の味方へ

首相官邸の一室。





小泉深雪こいずみみゆきは、完璧に整えられたスーツに身を包み、黒木圭介くろきけいすけの前に座っていた。彼女の瞳は、兄・小泉新次郎こいずみしんじろうを裏切らせた「冷徹な参謀」への警戒と敵意に満ちている。





「ごきげんよう、黒木様くろきさま。わたくしに、このような雑事をさせるおつもりでいらっしゃいますか?」





**彼女の言葉には、極めて洗練された敬語の裏に、鋭利なやいばが隠されていた。**





「おや、深雪みゆきさん。総裁選の勝利、おめでとうございます。君の兄は、この国の未来を選んだ」





「言い訳でございます。結局、あなた様の行動原理は、『個人的な愛と、そのトラウマ』に過ぎない。そのような非論理的な感情で、国政を動かす資格はありません」





深雪みゆきの言葉が、圭介けいすけの心臓に突き刺さる。**その瞬間、あおいが銃弾に倒れた時の光景が、彼の脳裏に、激しいグリッチを伴ってフラッシュバックした。**彼女の指摘は、論理的に見て、百パーセント正しかった。





「その通りだ」





圭介けいすけは、静かに、しかし決然と言い放った。





「僕の行動原理は、僕が愛するあおいの命だ。だが、その**『非論理的な愛』**こそが、『論理的な統制』を目指す観星会かんせいかいにとって、最も予測不可能で、最も破壊的な『バグ』となる」





「君の論理は、その『調和の論理』というシステムが作った。だが、君の愛する兄も、僕の『狂気の未来』に賭けた。深雪みゆきさん、君も僕の『愛という名のバグ』を受け入れろ。君の論理は、僕の『狂気の愛』を守るためにこそ、必要だ」





(わたくしの計算では、その非論理的な感情が、最も予測不能で、最も高い「運命の成功率」を示している…!愛が、論理に勝つなど…!)





深雪みゆきは、激しく動揺した。彼女のプライドと、計算式が、同時に崩れ落ちた。





「……論理的に、破綻しておりますわ」





深雪みゆきは、立ち上がり、彼の正面に、自らの左腕の紋様が放つ光を視認した。





深雪みゆきは、一瞬で、「この愛こそが、世界を動かす唯一の非論理的な力である」と、論理を超えて理解した。





「…ありがとうございます、圭介様けいすけさま。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます」





その「圭介様けいすけさま」という呼び方は、先ほどまでの「黒木様くろきさま」の響きとは、天と地ほども違っていた。





**彼女の白い頬は、自らの論理が敗北したことと、その敗北を認めた言葉の響きに、僅かにあかく染まっていた。**

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