第18話 嵐の剣と舞う刃 ― 準々決勝開幕 ―

砂漠の都サンドリア――空は青く澄み、太陽が容赦なく照りつけていた。だが、王都の闘技場の内部はそれ以上に熱く、観客たちの興奮が砂を震わせている。――本選、準々決勝。残る戦士は八名。誰もが頂点を目指し、その目に宿す光は一つも濁っていなかった。



対戦表


ケイン・クロウフィールド vs アイカ・ラーミア

カーン・ドレイク vs ガイ・ロウグレン

ニコラス・グレイヴ vs サーシャ・ルミナリア

カルネ・ヴァルト vs アッシュ・フレイム



観客の間でざわめきが広がる。――まさか、ケインとアイカがここで当たるとは。戦士として、仲間として、共に旅してきた二人。その二人が、この砂上で刃を交える。


◆第一試合:ケイン vs アイカ ― 雷と風、仲間の剣

フィールドの中央に立つ二人。ケインは無言で刀の鞘に手を添え、アイカは双剣を構える。互いの瞳に、迷いはなかった。

「ここまで来たね、ケイン」

「ああ。だが、ここからは遠慮しない」

「望むところよ。私も、舞うように戦うだけ」

審判の合図が鳴る。――瞬間、風が吹いた。アイカの双剣が閃き、砂上を駆け抜ける。

「”ソードダンス・初式”!」

流れるような連撃。風の花が咲き乱れる。ケインは一歩も動かず、刀を抜かぬまま。刃が頬を掠め、風が散る。

「……速い。けど――見える」

紫電が走る。

「”サンダー・ショット”!」

稲妻が足元を爆ぜ、アイカの動きを止めた。その瞬間、ケインが踏み込む。鞘走りの音――一閃。

「居合一文字――”紫電閃”!」

雷が地を裂き、風が弾ける。だが、アイカも後退しながら両剣を交差。

「”ソードダンス・二式・流風花輪”!」

旋回する斬撃が雷を切り裂き、互いの身体をかすめる。砂塵の中、二人が距離を取った。観客は息を呑む。血が一筋、二人の頬を伝う。

「……やっぱり強いな、アイカ」

「あなたも、やっぱり反則級ね」

笑い合いながらも、次の瞬間には真剣な表情へと戻る。ケインが雷を纏い、アイカが風を呼ぶ。紫と翠の光がぶつかり――嵐が爆ぜた。

「これで終わりだ――!」

「まだ終わらない――!」

同時に放たれた必殺。”紫電閃・双雷”と、”ソードダンス・終式・天花”。光と風が交差し、闘技場が白く染まる。そして、静寂。一歩、二歩――ケインの足が止まる。刀が地面に突き立った。アイカも膝をつく。だが、立っていたのは――アイカだった。

『勝者――アイカ・ラーミア!』

観客席が沸き上がる。ケインは地面に手をつきながら、笑った。

「……やっぱり、お前は強い」

「あなたもよ。けど、これが勝負だから」

アイカが手を差し伸べ、ケインはその手を取った。雷と風が交わり、静かな拍手が起こった。


◆第二試合:カーン vs ガイ ― 力と信念

次の戦いは、まさに剛と信義のぶつかり合いだった。カーンの斧が唸り、ガイの剣が風を切る。単純な力比べ――だが、互いに一歩も退かぬ。

「剣士よ、いい風を持っている」

「あなたの力、まるで山のようだ」

ガイの剣が風の刃を放つ。

「”エア・スラッシュ”!」

斧が受け止め、火花が散る。力で押すカーン。速さでかわすガイ。やがて、両者の力が限界に達した。

『勝者――カーン・ドレイク!』

ガイは剣を突き立て、笑った。

「いい戦いだった。まるで嵐みたいだ」

「お前の剣も悪くない。次に会う時は、飲み比べだ」


◆第三試合:ニコラス vs サーシャ ― 聖光と氷華

氷の宮廷魔導士と、光の聖騎士。互いに敬意を持って杖と剣を構える。

「あなたの魔法、前の試合でも見事でした」

「光の力こそ、正義の象徴。けれど……氷も、真実を映す鏡よ」

同時に詠唱。

「”ライト・アロー”!」

「”アイス・バーン”!」

光と氷がぶつかり合い、爆風が会場を震わせる。氷壁が崩れ、聖光が突き抜ける。ニコラスの剣がサーシャの杖を弾き飛ばした。しかし――彼女は口元に微笑を浮かべた。

「この程度で終わると思った?」

足元から氷の蔦が伸び、ニコラスの動きを止める。瞬間、サーシャが詠唱。

「――”アイス・エイジ”!」

吹雪が爆発的に広がり、光を覆い尽くした。結界が軋み、観客が悲鳴を上げる。そして、氷が砕けた。光が迸り、ニコラスの剣がサーシャの胸元を掠める。両者同時に崩れ落ち――

『両者戦闘不能、再戦審議保留!』

氷と光、両者譲らぬ壮絶な一戦だった。


◆第四試合:カルネ vs アッシュ ― 炎と炎の激突

最後の戦いは、まさに炎の饗宴だった。カルネの斧が燃え上がり、アッシュの拳が紅蓮に染まる。

「面白いじゃない……同じ炎使いか」

「悪いけど、俺の火は人を守る火だ」

轟音と共にぶつかり合う。斧が拳を受け、火花が散る。闘技場の砂が焼け、熱波が観客席に押し寄せる。

「”フレア・スピン”!」

「”フレア・バースト”!」

火柱が立ち上がり、視界が真紅に染まる。そして――煙の中から、立っていたのはアッシュだった。

『勝者――アッシュ・フレイム!』

カルネは笑いながら倒れた。

「燃えるねぇ……若い炎は、やっぱり強いわ」

「でも、あんたの炎も最高だった」

二人の笑い声が、会場に広がった。


こうして、準々決勝が幕を閉じた。

勝者は――アイカ・ラーミア、カーン・ドレイク、アッシュ・フレイム、そして審議中のニコラス or サーシャ。控室で、ケインは静かに空を見上げていた。隣に来たハントが声をかける。

「やりきった顔だな」

「……ああ。あいつが勝ってくれて、少し安心した」

「まるで親みたいだな」

「違うさ。――ただ、もう一度戦いたくなった」

外では歓声が続いている。雷の剣士は微笑み、静かに刀を磨いた。その刃には、まだ光が宿っていた。

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