第14話 離別
次の日、僕は学校を休んでお墓参りに来ていた。
お墓の位置は前からずっと知っていたんだけど、実際に来るのはこれが初めてだ。
お墓を目の前にしてしまったら、心菜が本当に死んでしまったことを実感してしまいそうで怖かった。
心のどこかではもしかしたら、心菜が生きているのかもと思っていたかったのかもしれない。
「そんなわけないのにな」
あいつが死んだのを一番初めに知ったのは僕だ。
だから、そんなことありえないとわかっていたのにどうしてもここに来るのが怖かった。
でも、手紙を読んでそらそうとした現実を改めて認識した。
心菜はもういないんだって。
「来るのがだいぶ遅くなっっちまったな。悪い」
墓石の前で語り掛ける。
返答が帰ってくるわけない事はわかりきっているけど、やっぱり返答がないのは悲しい。
「手紙……読んだよ。ごめんな気づいてやれなくて」
心菜は僕のせいではないと言ってくれたけど、どうしてもそうは思えない。
こんなことを言ったら僕はまた心菜に怒られるのかな。
「あと、死のうとしてごめん。心菜が思ってくれたこととは全く別のことをしてごめん」
自分は不幸になるべきだ。
心菜だってそう望んでるって勝手に決めつけて、自分の命を消耗品として扱って。
これは、本当に怒られるかもしれないな。
「いや、怒ってほしいな」
もう一度、心菜の声を聴くことができるのならどんな形であっても構わない。
それがたとえ怒られることになるのだとしても。
「そんなことしないか。変な事ばっか言ってごめんな。これからはちゃんと心菜の死を受け止めて、前を向いていくからさ」
前を向いて生きると決めた。
これ以上姉さんや乃彩を心配させないためにも、心菜が願ってくれたみたいに精一杯幸せを掴めるように頑張ろうと思う。
「それじゃあ、また来るよ。またな。心菜」
それだけ言って僕は墓石から視線を外して、来た道を戻る。
ここに来る時とは違い、随分と足取りが軽くなった気がしないでもない。
「いや、気のせいかな」
おそらくは気のせいだ。
だけど、心菜の死を受け止めて現実が見えてきたような感覚に陥る。
今まで、ふわふわしていた体が地に着いたかのような感覚だ。
嫌な感覚ではない。
「さて、帰るかな……ん?」
墓地を後にして、家に帰ろうかなと思っていると見知った人物が車と共に佇んでいた。
「こんなところでサボりか? 細波先生」
「そんなんじゃないよ。しっかりと休みはもらってる。熱が出たと嘘はついたけど」
「ダメじゃん。で、なんでこんなところにいるの?」
「迎えに来てあげたんだよ。ここから龍斗の家までそれなりに距離があるでしょ?」
確かに、このお墓まではそれなりに距離があるし。
電車で片道二時間ちょいかかるから車で迎えに来てくれるのは正直に言ってかなりありがたい。
乃彩はいつもの硬めの服装じゃなく、可愛らしい水色のパーカーとジーンズというラフな格好をしていた。
こんな風な乃彩を見るのは久しぶりかもしれない。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて送ってもらおうかな」
「任せときなさい。それで、しっかりお墓参りはできたのって言うのは聞かなくても良いかな」
「なんでだよ」
「だって、今の龍斗はかなり吹っ切れた表情をしてるからさ。うまくいったんだろうなって」
乃彩は優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくる。
子ども扱いされてるみたいで少し気に食わないけど、よくよく考えてみれば僕はまだまだ子供なので甘んじるしかない。
美人に頭を撫でられて不快に思う男なんてのはいないだろう。
(諸説あり)
「まあな。しっかりとお別れはできたと思う」
「ならよかった。これで死に急ぐようなことはしないって考えてもいいの?」
「ああ。もう積極的に死のうとすることは絶対にしない。心菜がそんなことを望んでないって言うのはわかったからな。それに……」
「それに?」
あんまり正面から言うのは恥ずかしいんだけど、これは自分への宣言というのも含めてしっかりと言葉にしたほうがいいだろう。
そう思って僕は助手席に座ってシートベルトをつけながら乃彩の目を見て言う。
「乃彩と姉さんを悲しませるような真似はもうしないからさ」
「そうしなさい。結衣ちゃん結構精神的に来てたからね」
「わかってる。帰ったら姉さんにもちゃんと謝るつもりだよ」
「よろしい。じゃあ、出発!」
乃彩がアクセルを踏み込んで車が加速する。
どんどんと心菜のお墓から遠ざかっていくのを眺めながら、僕はこれからどう生きるのかを考え始めるのだった。
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