第16話

 しかし、ここまでの様子からして、殺人の協力者を募るためとは考えがたい。であれば、単に友達作りの一環として相席しただけという可能性の方が有力かもしれない。

「それにしても、二人がここで初めて会った初対面同士だったとは意外だね」

「あ? なんでだ?」

「いや、君達が何やら、大事そうな話をしているように見えたからさ。なんだか、すでに深い信頼関係を築いているように感じたんだ」

 なるほど、そういうことだったか……。

「回りくどいな。つまり、お前が言いたいのは、俺達が殺人を画策しているんじゃないのかってことか?」

「違うのかい?」

「さぁ、どうだろうな。ま、どっちだったとしても、そんな大事なことを他人に話す奴はいないんじゃないか」

 この返答を予想していなかったということもないだろうが、須川は口を閉ざしてしまった。このままやり過ごしてしまうのも悪い選択肢じゃなかったが、殺人犯としてまとわりつかれるのも面倒なので、ある程度の意思表示はしておくことにした。

「とはいえ、この敷地内にはあらゆる場所に監視カメラが設置されている。それに加えてこの人目だ。こんな状況で、殺人を犯す奴がいるとも思えないけどな」

「監視カメラ……?」

 そう疑問を口にしたのは志村だった。どうやら、この場の誰も気付いていない様子だったため、試しに食堂内に設置された一箇所を指差して説明しておくことにした。

「気付かなかったのか? ほら、この食堂にだって仕掛けられてるぞ」

「本当だわ……。でも、ちょっと待って! それって、私たちがずっと監視され続けてるってこと!?」

「何をそんなに焦ってんだよ。見られて恥ずかしいことでもやっていたのか?」

「や、やってないわよ!」

 それだけ焦っていたら、逆に怪しまれるだろ。という指摘は、会話の円滑化を図るために控えさせてもらう。

「まぁ、それはいいとして、監視の件はあまり気にしなくていいだろう。常時録画はされているみたいだが、監視カメラの映像を確認できる監視室には常駐できない上、監視室の利用は一回につき一時間と限定されている。そして、次に使う際には、利用してから一週間のインターバルが必要となる」

「な、なるほど……。そんなルールがあったのね」

「更に、もう一つ。殺人側は個人で監視室を利用できるのに対して、探偵側は全体での利用になる。つまり、殺人側の条件にある遺体秘匿の七十二時間と、監視室利用のインターバル期間を踏まえれば、探偵側は殺人が発生したタイミング以外で監視室を利用する選択肢はまず取れない。よって、常駐は愚か定期的に利用することすら危ぶまれるという訳だ」

「へぇ~、全然知らなかったぜ。よく調べたな」

 千石はいつもの調子で納得した相槌を返し、質問していた志村も胸を撫で下ろすように感嘆の声を漏らしていた。しかし、須川だけは疑問を抱いていた。

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