第10話

 ここに記された項目が指し示すものは、現状維持以外の何物でもなかった。

 確認した甲斐なく、殺人側の生徒が殺人から逃れることのできない事実が再確認された訳だが、同時に、何か疑問のような違和感が残された。

 現状では、その正体を突き止めるには至れそうにないため、続々と体育館の外へ流れ出ていく人集りに従い、俺も自身の教室を目指すことにした。

 電子端末からマップアプリを開いて、学園内の地図を確認したところ、そこにもいくつか気になる点があった。

 敷地内に、娯楽施設やコンビニなどが設置されていることに注意が先行したが、やはり気になるのは、二つの縦に並んだ切り替えボタンだ。

 実際に押してみると、文字通り画面の情報を切り替えられることができた。最初に押した上のボタンによってもたらされる影響は、地図の詳細化だった。実際にはそれだけじゃなく、切り替えた際に何を示すかわからない小型の長方形も現れている。

 その謎の表記に関しては、もう一つの切り替えボタンによって、情報が追加された。地図の背景が暗転し、例の四角い何かから扇型で特定の範囲が浮かび上がった。校舎内の様々な箇所に記されているそれがなんなのかは、その在処に向かって確認することにした。

 記された中で最も近い場所に辿り着いてみれば、その正体に理解が及び、思わず声が漏れ出た。

「嘘だろ……」

 まさか、監視カメラまで設置されているとは……。

 どれだけ殺人に抵抗があるとは言っても、自分の立場を考えれば無視はできないため、監視カメラに関する情報も調べておく。しかし、そんな情報がどうでもいいと思えるくらいには、監視カメラという設備自体に大きな意味があることは言うまでもない。

 ここまで一時間も経過していないというのに、あまりにも重大な問題が多過ぎる。常に頭を悩ませ続けながらも、自身の教室に向けて歩を進める。とはいえ、どれだけ思考を重ねたところで、行き着くところはいつも同じだ。

 結局の所、殺人をするのかどうか。この問題に結論を出すこと自体危ぶまれるが、俺の目的は一貫している。

 一刻も早く卒業して、不甲斐ない俺を許してくれた家族に再び会わなくてはならない。でも、それを理由にして人殺しなんてしたら、それこそ恩を仇で返すことになるんじゃないだろうか。いや、しかし――。

 そんな誰からも解答を得られない悩みが無限に繰り返される中、等々教室に辿り着くことができた。

「遅いぞ。お前が最後だ」

「す、すみません……」

 そう指摘してきたのは教卓の前に立つ、鋭い目つきとロングヘアーが特徴の女だった。この人物が何者かはその白いスーツを見ればなんとなく見当が付いたため、反射的に謝罪をしていた。

 黒板上の席順を参考に自分の席を見つけて着席する。

 教室内の人数は、三十人ここに来る途中に見た感じでは、殺人側のクラスは三クラス存在しているため、合計で九十人。そこに、探偵側が加わるとその倍になって百八十人か。体育館でのイメージとも一致する。

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