第6話

 どこか複雑な気持ちは喉まで上がってきたが、自然と飲み込まれた。その行為が無駄であることを瞬時に判断できるほどには、俺も世の中を理解できたということなのだろう。

 要らぬ成長を実感していると、扉の開閉音と共に響き渡る足音が次第に距離を縮める。

「収監番号三十七番、柊要。今からお前を輸送する、出ろ」

 今日は自分らしくない思考が巡っていると思っていたが、これは虫の知らせという奴なのだろうか。

 俺は看守の指示に従い、何やら重厚な手枷が装着されると、腕が痺れ始めた。動かせない腕に困惑していると、更に頭の上から布を被せられた。

 その後、連れられるがままに輸送用の車両へと乗り込むと、そこには自分以外の存在が複数感じられた。

 布を被せられたことで声を出すことも、聞くこともできないが、明らかに十や二十では済まない数の気配が感じられ、妙な雰囲気が漂い始めている。

 俺達を乗せた車両は、一時間程度の走行を経て停車した。しかし、降車の指示はなく、不安に感じていると、停車したはずの車両に微量の揺れが生じ始めた。

 どうやら、船に車両を乗せたようだが、こいつらは一体、どこへと連れて行こうとしているんだ……。

 それから順調な海上移動の後、船が停泊すると、輸送車両が再び走行を開始し、二度目の停車が成された。その間の二時間に、隣で騒ぎ始めた奴が放尿し始める最悪のトラブルが有りはしたが、一先ずは目的地に辿り着いた。

 看守と思われる人物に腕を引かれて降車すると、被せられていた布が取り払われた。

 そうして光を取り戻した視界には、学校のような建造物が映し出される。

「降車した者は、監視官の指示に従い体育館に移動しろ」

 まったく状況は飲み込めないが、周囲を見渡す限りの鬱蒼とした森林と、辛うじて遠くに見える海によって、たった一つの選択肢を指し示した。

 監視官と呼ばれている人物が何者かはわからないが、その装いが特徴的な白のスーツだったため、一目で判断することができた。俺はその監視官の指示に従い体育館に向かうと、すでに百人を越えていそうな人数が集まっていた。

 見る限り、同年代の男女が集められているという状況に間違いは無さそうだが、まさかこれだけの大人数が収監されていたのか。ここにいる全員が無残にも未来を絶たれたと思うと、心苦しいものがある……。

 しかし、そんな心境などお構いなしに人数は増え続け、最終的には倍近くまで達していた。

 体育館の中が不安で満たされる中、カーテンが一斉に閉まり、館内が暗転する。もうそこには、一刻前のような騒がしさはなかった。

「ようこそ、有罪学園へ。犯罪者の若人諸君」

 その声は、ステージ上の大型スクリーンに映し出された人物からだった。

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