有罪学園

幕乃壱 洸

第一章 極楽入口

第1話

 二〇八〇年、とある会議室にて……。

「これ以上異論はないか?」

 静寂に包まれた会議室には、その一言が重々しく響いた。

 コの字に並ぶ机には、十枚以上のネームプレートが等間隔に設置されており、それに準じて配置された彼等の会議は二日間にも及んだ。

 それも、そのはずだ。今回の議題は、国家が抱える最も重大な問題を扱っているのだから――。

「では、今回の結論を改めて確認する。昨今の高子少齢化に伴い、我々は特別措置の実施を行う。その主な内容としましては、『選別委員会』の設立と『心清設備』の建設。これにより、彼等の尊き命に敬意を払うとしましょう」

 議長の発表に対し、周囲から否定の声はないが、どこか不満げな表情も見受けられる。最終的な決定だからといって、誰もが納得できるものになるとは限らないということだ。

 そして、彼もまたその内の一人だった。

「議長、少々よろしいでしょうか?」

「なんだね? 何か君の意見と相違が見受けられたか?」

「滅相もございません。異論の予知などないほど見事な結論だったと思われます。ただ、例の心清設備の名前だけ、この場で決めさせていただきたいと思いまして」

「名前? この内容は表に出る情報じゃないのだから、そんなところに拘る必要はないだろ」

「おっしゃるとおりです。しかし、これより選別委員長を任される身としましては、なんとも設備に似つかわない印象を受けてしまうのです」

「…そうか。では、聞かせてもらおう。君なら、これをなんと名付ける?」

 そう訊ねた議長に、彼は答える。

「はい。私ならば、これを『有罪学園』と名付けます」


・・・・・


 二〇九四年、某日……。

 日夜、未成年の非行に目を光らす大人達。それに気を配る日々が当たり前の俺達からすれば、実に信じがたいことだが、日本はその昔、少子高齢化と呼ばれていたらしい。

 現在の高子少齢化社会を造り出した主な原因は、数十年前のパンデミックと、手厚い少子化対策の影響だと言われている。

 その後、年々増加する未成年の非行件数に伴い、少年法の改正も目まぐるしく行われる中で、未成年の補導が正義となるまでに常識が飛躍し始めていた。その影響は大きく、俺達未成年者には実に息苦しい生活を強いられてきた。しかし、それも今日で終わりだ。

 等々、俺の全てを注ぎ込んだ受験結果が発表される。これに合格していれば、晴れて俺も優秀者の仲間入りし、免罪印がもらえる。

 薄暗い部屋の中で一人、ただその時間が来るのを待っていると、軽快な電子音がメールの受信を知らせた。

 迷うことなくメールを開くと、この数ヶ月間、何度も願い続けたその二文字に、余計な一文字が添えられていた……。

『不合格』

 俺はその知らせに頭を抱えた。正直、この現状を受け入れられる自信がない。

 嫌だ……、嫌だ……、もう何もできない生活なんてしたくない……。


 コンコン……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る