【第一章】閃光、曇天を斬る
Ep.1
陽射しが徐々に鋭利になってくる梅雨明けの快晴。
紫陽花は色褪せ、花弁を舞わせていた。
橙色のレンガで作られた家とそれらが馴染んでいて、夏の初めには心地が良かった。
カントリーミュージックが自然と耳を通り抜け、体が反応し、人々は踊り出す。
街は賑やかだった。
人口はそれほど多くないけれど、華やぎは周囲の国と比較しても、はるかに優れていた。
レーベンスシュテルン
周りの国からは名が言いづらい上に、長いことからレーベンスと略されることもあった。
移民を寛大に受け入れて、あちこちで異国の言語が耳に入る。
日本から花を持ち寄るものもいれば、スリナムからキプのレシピを喧伝するものもいた。
皆が一日以上をかけてレーベンスへ移住していた。
多国の文化が入り交じった、特徴のない国レーベンス。
そんな個性のない国が、こんなにも注目を集めるのには、一つの理由があった。
「希望を授ける神、エルピスの故郷」
数多の人々が此処へ越すのは、一つの光を求めてだった。
ある儀式を行えば、エルピスが希望を与える。
そんな言い伝えが古くから存在した。
例の場所へ、今日もまた人が足を進める。
死神のような形相をしたものや、ホームレスのように髪が伸びきったもの。
反対に幸せそうにブランド品を飾るものや、愛想のいいもの。
十人十色と幅広い人種が、己の穢れを祓うために儀式を行った。
しかし現実は甘くなかった。
その皆全てが、ただ涙を流し、暗い面持ちを乗せて帰ってくるのだ。
救いなど現れない、ただ自分の罪が重くのしかかってくるだけだ、と通り過ぎの人が口々に言う。
けれど、信じる人が減らないのは盲信からであった。
きっと今、月から人が突如現れて生贄にされるなんてことを言われても、誰も信じないだろう。
人は誰しも、経験しなければ俄には信じられないものだ。
しかし、その妄言さや存在しないものの噂も、ドローレは知っていた。
そして、人間の愚かさでさえも。
ドローレはただ一人、砂で汚れ灰色になった服を纏い俯いていた。
「悪魔の子」と呼ばれるその少女は、この街でただ一人、エルピスを信じていなかった。
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