切り裂き魔とジャック。

常磐 優希

オープニング 《事件発生》

 とある商店街の入口。いつも人やその話し声が聞こえて賑やかだが、今回は別の意味で賑やかで五月蝿い。

「ほいほーい、ちーと通りますよーっと」

 群衆をかき分け、俺は中心へと向かう。たく、こんな事気にするぐらいならもっと別の事に目を向けて欲しいものだね。

 そう思いながら俺は黄色と黒色のテープを潜る。制服の上から幾つもの刺し傷に切り傷。顔が分からないぐらいに刺され切られたりされたのか目玉も外に出ていてとてもショッキングな男子高校生の遺体。

「はあ、またこの事件ね」

 タバコを咥えながら火をつける。この遺体を初めこの街にはとある殺人鬼が彷徨いている。

「ジャック・ザ・リッパー」

 自らをそう名乗る。正体不明の切り裂き魔。その正体は未だ不明で証拠も手掛かりも未だ見つかっていない。

霧雨きりあめちゃん」

霧雨きりあめです。あと、ちゃん付けしないで下さい」

「はいはい、まったく。冷たいね」

服部はっとり巡査長が変なだけですよ。まったく、タバコ辞めたんじゃないんですか?」

「ああ、その予定だったんだけどもよ……」

 どうにも、こういう事件を見せられるとこう、心にくるものがあるな。

「……はあ、ま。今回は見逃しますよ。巡査長が吸う時は大抵それを拠り所にしたいからで……」

「きりあめちゃん」

「──っ、ああ、すみませんでした」

「ふぅ───」

 事件の状況整理も兼ね、俺は自分の頭の中で事件を振り返る。

 まず、被害者数。今月入って三件目。

 一人目は男子中学生。学友と遊びに行っていた帰り道に後ろから一突き。残されていたのは彼の遺体と包丁。

 二人目は女子高生。登校途中何者かに裏路地に連れ込まれ制服は乱れ乱暴された形跡を残し斬れ味の良い刃物に首を斬られ、事件現場に残されていた。

 そして、今回の事件で三人目。被害者数は男子高校生。幾つもの刺し傷切り傷。顔も分からないほどに刺され切られた痕跡を残し眼球は出ているというこれまでとは少し変わった死に方をしている。そして、近くには──。

「やっぱりあった」

「刃物がですか」

「ああ」

 今回はランボーナイフか。珍しいな。切り裂き魔が落としていくのはいつも包丁なのに……。

颯馬そうま‼︎」

 人混みをかき分け一人の主婦が現場に入ってくる。

「──! そこの人ここは事件現場で──」

「霧雨ちゃん、止めてやるなよ」

 だって、そういうことなんだろ。坊主。

 反応なんかしない死体に俺は目で訴えかける。それと同時に俺のなかで深い憎悪だけが込み上げてきた。

「うっ──ううっ──」

「えっと、学生さんのお母様でしょうか」

「はいぃ……!」

「では、あちらに──」

 霧雨ちゃんは少し遠くの所にお母様を連れて行っていた。

 泣いてたな。当然か。

 ここまで愛情を注いで育てた子。その熱い愛情で動いていた子が次の日には熱を奪われて横たわっているんだ。

「山田!」

「はい、なんでしょうか」

「メシ、あとで行こうぜ」

「ご遺体を見たあとによくそんなこと言えますね先輩」

「はは、どんな悲惨な現場を見たとしても生きている者はメシを食わなきゃなんねえんだよ。じゃなきゃ、俺らは何のために警察なんてブラックに就いたと思ってんだ!」

「……なるほどです。もちろん、先輩の奢りッスよね」

「お前も随分生意気になったな──」






悠真ゆうま視点】


 今日。僕は人の死体を見た。

 最近この街を騒がせている殺人鬼による犯行だって。隣のおばさん達が話していた。

 それが本当なのか嘘なのかはたまた誠だったのかなんて僕には分からない。でも、今の僕の目には同じ制服を着た死体が見えている。

 見覚えがあった。一度だけ僕が転んだ時に手を差し伸べてくれた先輩。そんぐらいの関係。それでも、やっぱり知っている人の死体は胃に来る。

 ……帰ろう。そう、思い僕は回れ右と足先を帰り道に向ける。

「ねえ、キミあの死体と面識あるね」

 知らない青年の声。振り返ると黒いハット帽を被り彼の顔が良く見えないがとても整っているんだろうと言うことだけは感じ取れる。服はまるでマジシャンを思わせる派手めな燕尾服。なんでこんな派手な人が目に入らなかったのか不思議に思う程存在感を漂わせていた。

「……違います」

「嘘」

「……何を根拠に言ってるんですか」

 もし制服って言ったら無視して帰ろう。そう心に決めて僕は奴の応えを待つ。

「うーん、そうだね。一番は表情。かな」

「……ッ⁈」

「あ、またその表情をした」

「誰だって死体を見ればこんな表情になりますよ」

 気味が悪い。コイツは僕のことを知っている。どこで? 分からない。やっぱり、分かることはコイツが気味悪いと言うこと。

「おばさんたちの顔を見なよ。表面では恐怖で顔を顰めてはいるがその裏では好奇の目であの死体を見ている。みんな結局は刺激が欲しいのさ」

 黙っていればペラペラと。訳の分からない話をするやつだ。

「用がなければ帰りますよ」

「冷たいなあ。ま、その強がりもいつまで持てるかな」

「……何が言いたいんですか」

 待っていましたと言わんばかりに男は笑顔を口元に作る。作り物の様な気味の悪い笑みを。

「提案さ。この事件キミも関与してみないかってお誘いよ」

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