10月29日 井出宅
「やっと届いたぜ!これが前に話した単語帳だ!」
テーブルの上に単語帳が7つ並んでいる。小さな長方形の紙をリングで束ねた一般的な見た目をしており、表紙にあたる1枚目の紙には、メーカー名と『30枚綴』と記載されている。
「懐かしいな。学生の頃こういうの使ってたな。にしても、30枚綴って少ないな。単語帳って100枚とか200枚のイメージだわ。」
田口はその内の1つ手に取り、パラパラと捲る。両面とも真っ白だった。井出は「初心者用ってやつだな!」と笑っている。
「で、これはどういう理由で送られてきたんだ?」
田口の問いに井出は身を乗り出して説明を始める。
「えーっと、元々は10個セットで普通の文房具屋で売ってて、その内3個は英単語用で使ったんだって。
んで、英単語を書き込んで何度も読み返していたら、書いた覚えのない単語が増えてたんだってさ。しかも、怪我とか病気みたいなちょっと縁起の悪い言葉ばっかり。」
「30枚綴から増えたわけか。」
「そう。最終的に不吉な単語ばっかりで5枚ぐらい増えて、別の単語帳で作り直してもまた増える。それが3個連続で起きたからもう無理!ってなったってことらしい。」
「展開的には水音テープと似た流れだな。」
「それな!俺の家は曰く付きの駆け込み寺じゃないっての!」
井出は笑いながらペンと単語帳を手に取ると、紙に何かを書き込み始めた。
「やっぱ単語帳と言えばあれだよな!英単語か歴史の年号!」
表に「710年」裏に「平安京」と書いた紙を田口に向け「平城京な」とツッコまれる。
スマホで調べながら戦乱や幕府の成立、近代の出来事を書き終えると、単語帳を田口に渡す。
「これを何度も読み返してると書いてない紙が増えるのか」
ペラペラと表面の年号と裏面の出来事を何周も繰り返し見ていると、ふと手を止めた。
「……増えた。」
その言葉を聞いた井出が「マジか!」と興奮しながら単語帳を横から覗き込む。
「2001年/テロ」
スマホで西暦と内容を検索すると、世界的に有名な事件が表示された。
「あのビルに飛行機が突っ込んだていうあれか。」
「俺らは生まれた年だからよく知らないんだよなぁ。」
そのまま捲り続けると続々と紙が増えていった。
「2003年/病気」「2004年/地震」「2008年/金融危機」「2014年/噴火」「2019年/病気」
そのうち紙が増えなくなり、田口は捲るのをやめた。
「英単語を書いたら英単語が増えて、年号を書いたら年号が増えるのか。」
「それな!勝手に覚えること増やしてくるから、『お節介単語帳』と名付けてやろう!」
井出が笑いながら単語帳をヒラヒラさせて、ゆるい名前で呼ぶと、言葉を続けた。
「よし!次の動画は生配信にして、書く内容を募集してみよう!視聴者参加型ってやつだ!」
田口は年号を追いながら、どこか落ち着かない気分になっていたが、井出の勢いに押されて頷いた。
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