影は歩く、神隠しは終わらず
@hanahojitekitouman
プロローグ
「ねぇ、聞いたことある?
夜になると、 “黒いもの”が現れるんだって」
放課後の教室は、まだ賑やかだった。
椅子を引く音、制服のスカートが擦れる音、笑い声。
その隅で、スマホをいじっていた女子高生が、ふと口を開く。
窓の外は茜色の空がゆっくり暗く沈み始めていた。
「黒いもの? なにそれ、妖怪?」
友人が笑いながら首をかしげる。
「違う違う、もっと……人みたいなやつ。
悪い子供を連れていくんだって。『神隠し』って呼ばれてるんだよ」
誰も本気にはしていなかった。
都市伝説のひとつ、放課後の暇つぶしにちょうどいい話題。
でも、カーテンの隙間から、夕暮れの茜色の空を背景にチラッと黒い塊が見えた。
制服でもスーツでもない、輪郭も顔もはっきりしない
ただの“闇”のような存在だった。
彼女は思わず後ずさり、息が詰まった。
「ぎゃっ……!」
小さな悲鳴が教室にこだまする。
声に気づいた友人たちが駆け寄った。
「どうしたの!? 何があったの!」
しかし、窓の外を見ると、黒い塊の姿はもうなかった。
ほっとして席に戻ろうとした瞬間、机の上に、黒い紙切れが置かれていた。
震えるような筆跡で、こう書かれていた。
『君は、悪い子?』
床の方で、カタリと何かが転がる音。
彼女が視線を落とした瞬間、教室全体が闇に覆われ、姿は消えた。
友人たちは唖然とし、口々に叫んだ。
「え? A子は……?」
翌朝。
教室には誰も座っていない席がひとつ。
机の上には、あの黒い紙だけがぽつんと残されていた。
これは、警察組織によって記録されることになる“神隠し”最初の事件だった。
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