さらば、友人

 思い返せば、変わった人との出会いが私には多い気がする。最も古い記憶は私が小学生のころのことだ。


 私が公園のベンチでぼーっとしていると、同じ年ぐらいの少年に声を掛けられた。


 少年は以前から私のことを知っていたようで、話をしてみたかったと言っていた。それから私たちは、その公園でお互いの時間が許すまで一緒に過ですようになった。


 少年は他の子供とは違い独特の雰囲気があった。まるで、大人のような。私はそんな彼に少しづつ憧れていった。


 このような日々が一週間ほど続いたある日、少年はいつもより遅れて現れた。どこか疲れていて、元気がない。ぐったりとベンチに座り、空を見つめる彼が口を開いた。


「僕はもうすぐいなくなるんだ」


 その少年の言葉に私は、どこかへ引っ越すのかと思った。だが、真相は全く違うものだった。


 前世の記憶はたまに聞くが、彼は前世の人格を持ったままこの世に生まれてきたのだと言った。しかし、今世の人格もあり、二重人格のようになっていると言っていた。


 前世で確かに死んたはずなのに、気が付けば少年の体の中にいたらしい。だが、最近の彼は自分の存在が希簿になっていくのをひしひしと感じていると言った。それはまるで、前世の時の死に向かっていく感覚に近いと。


 何故その話を私にしたのか彼に尋ねると、「僕という存在を憶えていてくれる人が欲しかった」と言った。ずっと探していて私にしたと。私は彼に何も言えなかった。私はただ彼と別れたくなかった。この日々を終わらせたくなかった。


 彼は最後に巻き込んですまないと言い、去ってしまった。私がようやく声を出した時には、彼の姿はもう見えなくなっていた。


 翌日、私はいつものようにベンチに座っていた。だが、彼は現れなかった。次の日も。また次の日も。一ヶ月が経ち、私はついに公園にいくのやめた。


 一年の歳月が過ぎたある日、街中で彼によく似た少年を見かけた。声を掛けようとしたが、彼の独特な雰囲気はなく、ごく普通の少年だった。それで、私の知っている彼はもういないのだと悟った。


 あの時、彼はこのことを偶然と言っていたが、いま私は奇跡だったと思う。


 私はまだ彼を憶えている。

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振り返る人生 鈴島 優 @suzushima-28

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