消えた海賊

夕暮れの海が見える。紫色の空に浮かぶ夕日が綺麗だった。


目が覚めると夕方になっていた。

あのまま寝てしまったらしい。


机を見ると先ほどまで手元にあったはずの本がなかった。


誰かが戻してくれたのだろうか。


夕暮れの時間帯になるまで、眠ってしまったようだ。


あの本を読んだ後、あのモノクロの映像が流れて、そのまま眠ってしまった。


あの男の子は誰だったのだろう。


夢に出てきた白い服の人と雰囲気が似ているような気もする。



館内にはまだ誰もいないようだった。


気分転換に海まで行ってみよう。


もしかしたら誰かに会えるかもしれない。


そんなことを思いながら図書館を出て海へと歩いて行った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

浜辺まで来ると大きな夕日の光が海に反射していた。



静かな波の音に包まれながら腰を下ろす。


落ち着く。いつの日かこの海を誰かと見ていた気がする。



そんなことを思いながら海を眺めているうちに、夕日が沈みかけ、辺りが暗くなりかけていた。


そろそろ部屋に戻ろう。


そう思った頃だった。


私よりいくつか年上の男の人が近くに立っている。


私に用があるのかその人は私を見据えている。


足音もなかった。どこから来たのだろう。


「あの、」


もしかしたら、このホテルのオーナーなのかもしれない。そう思い、いくつか疑問に思いながらも私は声をかけた。


「貴女がルナか」


そう言いながらその男性が近づいてくる。海賊のような服装をしていた。


「え?」



貴女という古風な呼び方に少しだけ違和感を覚えた。


どうして私の名前を知っているのだろう。


「私を知っているんですか?」


施設と提携しているホテルだから、私の名前を知っているのか。でも、顔立ちからして、オーナーと言うにはまだ若く、服装からして従業員というには少し違うような気もする。

色々なことを考えていると彼が再び口を開いた。


「知っている。貴女が来ると聞いて、ここに来た。」


このホテルの管理人だろうか。

同時にいくつもの疑問が浮かぶ。


朝から人がいなかったこと。

図書館で見たあの本のこと。

ここはホワイトホテルで間違いないかということ。



「あの、朝からこのホテルに誰もいなくて。招待されたはずなんですけど、場所を間違えたのかなって。」


「貴女を招待したのはここで間違いない。"ホワイトホテル"だ。」



その言葉を聞いて、少しだけほっとすると同時に私の中でさらに謎が深まる。


自分が向かった旅先のホテルは間違いなかったのだ。


しかしその人は、人がいないことについては触れていない。何かあるのだろうか。



「どうしてここには誰もいないんですか。」


閉館しているわけではないはずだ。私以外人がいないことに違和感を覚え、その事実を確かめた。


「もうすぐ会える。焦らなくて良い。」


どういうことだろう。


開館していて、こんなに大きなホテルなら既に人が来ているはずだ。


違和感。とは少し違う何かが心を支配する。恐怖や疑いではない。


現代ではないどこかで生きているような雰囲気の服装。

足音がしないのに、彼がここにいたこと。


彼がここにいることについて謎が深まっていく。


普通なら帰りたくなるはずだろうけど、彼の言ったことが、私の大切な何かが関係しているような気がしてならなかった。


「あの、あなたは」



「リクだ」


彼の名前を聞いた途端、またあのモノクロの映像が流れた。


ザザっ


?!



「「一緒?」」


「「そうだね、俺とルナはずっと一緒にいるよ」」


映像の時間帯は夜だろうか、月が海にキラキラと反射している。夜に白い服の人と一緒に、船でどこかへ向かおうとしている。


その映像を見ていると忘れている何かがあることを確信した。


やっぱり私、その人を知ってる。



どうして思い出せないんだろう?



私は過去にここで何をしていたんだろう?



ザザっ



映像が消えた。


あたりがモノクロからいつもの景色に戻っている。


既に夕日は沈んでいて、辺りは暗くなっていた。



そして先ほどの男性はいなかった。


リクと名乗っていた。あの人の正体は何なのだろう?あの人は何を知っているのだろうか。


映像で見た白い服の人とは違う。


あまり見かけない海賊のような服をしていた。仮装ではない、実際に日常で着ているような。

それもここの世界ではないどこかで。そんな気がした。


先程の映像で、海賊のような彼はいなかったが、私と白い服の人が乗っていた船が印象的だった。



"すぐに会える"



彼の言葉が反芻する。

私を待っている人がいるということだろうか。


白い服の人は施設まで一緒に来てくれた人に似ている。


不思議なことに顔は思い出せないのに、どこか儚くて優しい笑顔に安心したこと。


もし私が施設に預けられるまでの間、このホテルにいたとするならば、施設まで来てくれた人があの白い服の人なのだろうか。


あの船で向かう先は施設か、どこか知らない場所か。


ならあの海賊のような人は誰なのだろう。


彼らは何を知っていて、私は何を忘れているのだろう。


何も覚えていない。


思い出せない。


何も分からない。



「何が起きているの...?」



私はその場に立ち尽くした。

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