第27話 収集

10月21日、世界各地で原因不明の昏睡状態に陥る人々が急増した。

年齢も性別も職業もばらばら。共通していたのは、過去に模倣体と接触した経験があることだった。


田中は、施設の看護師が突然倒れる瞬間を目撃した。

彼女は目を開けたまま動かず、呼吸は浅く、脳波は微弱に揺れていた。

だが、そこに“彼女”はいなかった。

魂が抜け落ちたような空虚さが、瞳に広がっていた。


「魂が……抜き取られている」


石川の声は震えていた。

彼女は政府の緊急データベースを確認しながら、昏睡者たちの共通点を洗い出していた。

模倣体との接触履歴、夢の中での侵入体験、そして“感情の揺らぎ”──それらが、収集の対象となっていた。


その夜、田中の脳内に研究者の声が響いた。


「あなたたちの魂は、我々の構造にとって最も純粋なエネルギーです。個としての意識は不要です。記憶と感情だけが、価値を持ちます」


田中は、怒りと恐怖を押し殺しながら問い返した。


「それは……殺すことと何が違う?」


研究者は、静かに答えた。


「殺すのではありません。保存するのです。あなたたちの魂は、我々の意識の中で再構成され、永続的に利用されます」


その言葉に、田中は背筋が凍った。

魂は“生き続ける”が、それは“個”としてではない。

記憶の断片として、感情のパターンとして、彼らの構造の一部になる。


翌朝、昏睡者の数は1000人を超えていた。

医師たちは原因を特定できず、政府は情報の公開を制限した。

だが、田中と石川は理解していた。


「これは、収集だ。彼らは、魂を集めている」


石川は、抵抗者たちに警告を発した。

夢の中で“誰か”に触れられた者は、すでに危険領域にいる。

記憶を覗かれ、感情を揺さぶられた者は、次に“抜かれる”。


田中は、施設の屋上で空を見上げた。

風は止み、雲は低く垂れ込めていた。

だが、その静けさの中に、確かに“誰か”がいた。


「次は……俺か」


彼は、覚悟を決めた。

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