第2話 リベンジャーズ



机の上に並んだ三本の牛乳瓶。

その白濁は冷気を放ち、ガラス越しに光を返す。

誰もが知っていた——今日の給食は、ただの食事ではない。

これは伝説となる聖戦。

教室全体が、今か今かと息を詰めていた。


実況「さあ、赤コーナー!たかし!」

解説「新星ですね。勢いがあります」

実況「青コーナー!まさし!」

解説「百戦錬磨、牛乳早飲みの古豪です」


二人の戦士が立ち上がり、机に手をかけた。

沈黙——そして。

カァン! ゴングが鳴り、フタが一斉にはじけ飛んだ!


実況「1秒! 一本目を流し込んだ!」

解説「冷たさが喉を突き刺しますね!」


実況「2秒! たかしが一歩リードか!」

実況「3秒! 一本目、ゴトリと落ちる!」

解説「ここからが本当の勝負です」


実況「4秒! 二本目に突入!」

実況「5秒! まさしが追いついた!」

解説「胃袋の限界との戦いです!」


実況「6秒! 二本目も沈んだ!」

実況「7秒! 運命の三本目!」

解説「残るは気力だけ!」


実況「8秒! 互いの視線がぶつかる!」

実況「9秒! ゴトリ! 勝者は——まさし!」


勝利に沸くまさし、肩を落とすたかし。

二人は同時にしずかちゃんへ駆け寄った。


「俺の勝利を見ただろ!」

「俺の想いを信じてくれ!」


しずかちゃんは優しく微笑んで、首を振った。

「……そういうことじゃないの。私の牛乳は——」


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る