第23話 森の奥の静寂
鬣犬は牙をむき出しにして、甚兵衛の眼前に迫った。
その鋭い瞳は怒りと憎悪に満ちていたが、突然、くるっと振り返り、意識を失った老婆を背中に乗せると、静かに森の奥へと消えていった。
甚兵衛はその姿をにらみつけながらも、我に返り鬣犬の追撃を試みようとしたが、体が思うように動かなかった。
疲労と戦いの傷が彼の体を重く縛りつけていた。
その時、死んだと思われていた弥市と村の若者三人が、傷を負いながらも生きて現れた。
彼らの姿を見て、甚兵衛の胸にわずかな希望が灯った。
彼らは倒れたふりをして、再び立ち上がったのだった。
一日が過ぎ、村では甚兵衛と村人たちとの話し合いがもたれていた。
重苦しい空気が場を包み、村人たちは自分たちが鬣犬に恨みを買っていたことを認めざるを得なかった。
甚兵衛は自分の直感を村人に伝えた。
もう鬣犬は村を襲ってこないのではないか。
なぜなら、村を襲う原動力であった老婆が意識を失い、もはやその力を持たないからだと。
村人たちはその言葉に沈黙し、重い責任感と共に自らの行いを振り返った。
彼らの心には、これまでの行動がもたらした結果への深い反省と、これからの村の未来への不安が交錯していた。
森の奥からは静かな風が吹き、まるで新たな時代の訪れを告げるかのようだった。
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