日本の未解決事件
左腕サザン
はじめに
「はぁ疲れた……」
彼の名前は
ホラーやミステリーを愛する、ごく普通の大学一年生である。
午前午後ともにぶっ続けで講義を受けて疲れ果てていた三島は、息を吐きながら教室の扉を開けた。
そこは、彼の所属するオカルトサークルの部室。
部室は電気が付いておらず、カーテンも閉められ、わずかに入り込む陽の光が、部室を薄暗く照らしていた。
そしてその中には、体育座りをしながら自らの爪をカリカリと噛んでいる怪しい男がいた。
「あ、お帰りなさい三島君」
彼の名前はK。
三島と同じくオカルトサークルに所属する大学一年生だ。
この大学の同学年、さらには上級生、教授までもが、彼の本名を知らないという、謎多き人物である。
Kは心霊、ホラーには興味はないが、実際に起きた事件、その中でも未解決事件となっているものにのみ強い関心を示している変わり者である。
「相変わらず暗いなぁ。こんな薄暗い場所で小さい文字なんか読んでたら目が悪くなるよ」
「私は暗い方が落ち着くんです。それに、暗い場所で文字を読んだら目が悪くなるという科学的データはありません」
「はいはい。でも僕は暗いと落ち着かないから、電気つけるね」
――ここオカルトサークルは、三島を会長、Kを会員とした2名だけで活動をしている。
取り上げる話題が主に未解決事件ばかりであること、Kの空気感が異様で大学内でも避けられていることから、入学以来ずっと2人で活動してきたのである。
「っていうかK、もう後期に入ったのに、まだ敬語なの? 僕もKも同じ学年なんだから、タメ口でいいよ」
「いえ、三島君は会長で、私は会員です」
「……う、うん。それじゃあ、なんで僕が会長なんだろ? Kの方が頭いいし、いつも話題持ってきてくれてるし、それに見た目も……ほら、Kの方がオカルトサークルの会長に相応しいと思うんだけど……」
「見た目も……という点は理解し兼ねますが、私は会長になる気はありませんし、敬語をやめることもありません」
「そ、そっか……」
三島は荷物を置き、Kの前に座った。
すると三島は、部室のテーブルの上にまたしてもとんでもない量の資料が置かれていることに気がついた。
「うわっ……あれすごい資料の量だね。全部Kが持ってきた未解決事件関連の資料なの?」
「はい、これはまだ日本の未解決事件のほんの一部にすぎませんが、これだけあれば今期は持つかと……」
「はえ〜」
夏休みを自分の好きなことにばかり時間を費やしていた三島とは対照的に、Kは夏休みを使って、ひたすらサークルのために資料を集めていたのだ。
Kはぬるりと立ち上がり、テーブルの上の資料の一部を手に取ると、ニヤリと口角を釣り上げた。
「では、今期も日本の未解決事件の真相について、推理考察していきますか」
「あ、うん!」
こうして今期もオカルトサークルは、日本の闇に片足を突っ込んでいくのであった。
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