『短編』冷血の王妃と予言の王

寿明結未

冷血の王妃と予言の王

 これは、大昔の話……。

 とある国の、とある王様が――ある日、命令した話。


「見目麗しい娘たちを火炙りにせよ!」


 これに驚いた民衆たちは、ついに陛下が狂ったのだと誰もが口にした。

 王様には三人の王子がおり、高名な預言者に〝〟と予言されたそうだ。

 そんな事はあってはならないと、貴族を始めとして多くの娘たちが火炙りに処された。


 ――唯一、見目麗しい二人の娘を残して――。


 一人は、公爵家故に命を免れた、まだ幼いガーネット。

 もう一人は、まだ生まれたばかりの娘……マーガレット。


 なんの因果か、二人はとても美しく育った。

 王子の内、一人は必ずガーネットと結ばれなくてはならない。

 そのことで、王子たちは必死にガーネットの気持ちを引こうと必死になったが、彼女は


 そのため、微笑むこともなく……と呼ばれるようになっていった。


 ――しかし、学園に入り数年すれば、見目麗しい庶民の娘が学園に入ってきた。

 彼女は自分が運よく助かったことを知っている。

 故に、上手く立ち回って生きていくのだと決めていた。


 ところが、人生そう上手くいくはずがない。

 微笑まぬ氷のガーネットより、見目麗しい庶民の娘、マーガレットに王子たちがたちどころに恋に落ちるのは必然だったのか否か。

 無論、――。


 第一王子と第二王子は、マーガレットを求め争い、時には剣を持ち出すほどであった。

 マーガレットはその度に「血を見るなんて嫌です!」と泣き叫び喧嘩を止めた。

 ガーネットは、その様子を無表情で見つめるだけだった。


 そんな日々が続くある日、マーガレットは怒りに狂い、ただ見ているだけのガーネットに矛先を向ける。


「なぜ王子たちが剣を持ち出し決闘をしようとしているのに、ガーネット様は無表情でいられるのですか!!」


 ガーネットは静かに答えた。


「え、わたくし、関係ありませんわよね?そちらの方々、貴女を求めて決闘をしているのでしょう?」

「だからって……見ているだけではなく、何か言ってください!」

「とは申されましても……。わたくしのために争うのならまだいざ知らず、貴女のために血で血を流す戦いをするのでしょう?ならば、貴女が止めるべきではありませんの?」

「この血まで凍った冷血女!!」


 そう叫んだマーガレットの言葉に、王子たちは嘲笑いつつガーネットに口にする。


「全くだ。マーガレットは俺たちに争ってほしくなくて泣きながら止めるというのに」

「お前と来たら無表情でただ見るだけか、見ぬふりして通り過ぎていくだけだ」

「はぁ。わたくしには関係ありませんし」

「だからこそ冷血だと言っているのだ! 貴様に人間の血は流れているのか!?」


 そう言って首筋に剣を突きつける第一王子。

 しかし、ガーネットは顔色一つ変えなかった。


「お言葉ですが……。わたくしの命のもとに、多くの命があることをご存知ですか?」

「は?」

「ああ、俺たちのために父上が見目麗しい娘を殺せと言ったか?がどうした?」

「ご自分たちのせいで、沢山の命が死んだのに、随分と軽い言い方ですのね」

「何だと!!」

「そんな……ガーネット様までそんな酷い言い方をなさらなくとも」


 涙を潤ませ今度はガーネットを批判する。

 その様を、俺はじっと見つめていたがそろそろ限界だった。


「兄上たち、いい加減その辺にしたらどうです? これ以上は王家の立場が危うくなります」

「マルセル……」

「ッチ」

「流石マルセル様ですぅ~!」


 そう言うマーガレットを無視して、ガーネットの手を掴んで歩き出す。

 彼女の心が凍ってしまったのは――


 ガーネットはよく笑う優しき女の子だった。

 それが――あの時の火炙りの刑の際、仲の良かった友人たちが次々に死んだのだ。

 それで冷血と言われるとは……よほど冷血なのは兄上たちの方だろう。


「ガーネット様が……冷血だとは思いません」

「……マルセル様」

「あのような出来事があったのです。高名な預言者と言っても、本当にその予言が本物であるか分かりませんね」

「というと?」

「予言では三人の王子が一人の美しい女性を奪い合うために争う……とありました。ですが、俺はあの娘には惹かれない」

「確かに……マルセル様はそうですわね」


 そうなのだ。

 占い通りならば、兄上たちはマーガレットではなく、ガーネットに目が向くはずなのだ。

 だが、その予言通りにはならない。

 では、予言が間違っていたのか?

 それは、今となってはわからない。


「少なくとも、兄上たちが王太子になるのは無理でしょうね……。城でも問題を起こして父上も頭を抱えております」

「まぁ、あのお二人お城でもですの?」

「ええ、どちらが彼女に相応しいのかと、醜い争いをしていますよ」

「……」

「あの娘とて、生まれるのが一年早ければ火炙りにされていただろうに……。まるで自分は関係ないとばかりな態度。気に入らない」

「そう……ね」

「父上に今回のことも含め、通達しなくては……」


 今、兄上たちが夢中になっている女性。

 あの女性こそが、傾国の女性だったのではないだろうか?


 だとしたら、ガーネットが心を凍らせるほど悲しませたあの事件は一体なんだったのか……。

 俺は父上にこのことを語るべく城へと戻り、父上に事の内容を一部始終見たことを告げた。

 何時も兄二人に頭を悩ませていた父上は、という事実に顔色を青くし、大きくため息を吐く。


「最早、あの二人を止める術はなさそうだな」

「いいえ、一つあります」

「なんだ、言ってみろ」

、そう問いかけてみてください。もし傾国の少女を選ぶと言うのなら、王族から籍を抜いて男爵の地位でも与えて三人で生活させればよいのです」

「三人?」

「ええ、どうせ兄二人はあの少女を選ぶでしょう。俺はガーネット様を選びますが」


 あの女はだ。

 そう感じ取っていた俺は、笑顔で父上にそう進言した。

 父上も、流石に王の道を閉ざす真似は、あの二人はしないだろうと思っていたようだが――。


「喜んで、マーガレットを選びます!」

「俺もです!!」

「お前たち……っ!!」


 ――陛下も甘かった。

 兄二人がここまで狂っているとは思わなかったのだろう。

 このことにより、兄二人とマーガレットの三人の奇妙な生活が城の塔の中でスタートした。

 何時も女性の助けを求める叫び声が響き渡り。

 何時も女性のすすり泣く声が響き渡り。

 いつしか、声がしなくなる頃……腐敗臭がするようになってきた。


 父にそのことを伝え、塔の中を見ると、既に事切れた三人がいたそうだ。

 何があって死んだのかは――これ以上は言わないでおこう。


 残った息子は俺一人。

 俺はガーネットに婚約を申し出た。

 ガーネットは小さく――。


「いつか、あの二人が過去の過ちをしっかり受け止めてくれると……願っていたわ」

「でも、それは叶わなかった」

「ええ……悲しいわね」


 その時、初めてガーネットは一筋の綺麗な涙を零した。

 冷血なんてとんでもない。

 彼女は何時も心を痛めていたのだ。

 死んだ友人のことも、そして、自分たちのせいで沢山の令嬢が死んだにも関わらず、全く無関心だった兄たちが改心してくれると信じて――。

 けれど、それは兄たちが死ぬまで叶わぬことだった。

 二人はマーガレットに夢中になり、あのような悲惨な出来事が起きたのだから。


「ガーネット、これからは俺と共に、あのような悲劇が起きないようにしていこう。国を変えていこう」

「……ええ、そうですわね」


 ――こうして、後に賢王と名高い俺が国王となり。

 王妃に、冷血と名高いガーネットが寄り添うように国を整えていく。


 もう、父が起こした悲劇を起こさぬために、子供のために預言者を呼ぶことを禁止した。

 子供の運命は子供が決めるべきだ。

 先のことを知りたいがために、知ってしまったからと命を奪っていては、国力も、そして王への忠誠心も国民から離れてしまう。


「ガーネット、子供の未来を予言してもらうことは出来ないが、君が知りたいことを予言してもらっても良いんだよ?」


 そう俺が愛しい王妃、ガーネットに告げると――。


「では、貴方が予言してくださいませんか? わたくしをずっと愛するのかどうか。そして、この国を正しき道に導くのか否か」


 思わぬ問いに目を見開き驚いたけれど、次の時には微笑んでいて――。


「変わらぬ愛を王妃ガーネットだけに。そしてこの国は私が国王でいる間は……平和で戦争のない国にしてみせるよ」


 国王である俺の口から予言したことは事実となり、俺が国王の間、飢饉や水害なども起きず、平和な時代が続き――。

 賢王の隣に慈愛の王妃あり……と言われるようになるのだった――。


 ==完==

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