二十七夜 早く逃げニャイト

 ⋯⋯。


 こいつ⋯⋯いや、まさかにゃ?


「クロノア、ひとつ聞いてもいいにゃか?」

「ふんふふ〜ん♪ んん? なんにゃ?」


 鼻唄歌うほどの余裕か。


「お前、何者にゃ?」

「言ったろ? オイラはただのトレニャーハンターにゃ。そう言うアンタこそ何者にゃ?」

「ぐ~たら猫にゃ」

「にゃあ、お互い様じゃにゃーか」


 そうにゃね。詮索するのは野暮ってもんにゃ。お互いに知らにゃい方がきっとやりやすいにゃろう。


 それにしても実に鮮やかにゃ。


鎌猫シックルカッツェ!」


 ロックゴーレムがまるでバターをスライスするかのように切り刻まれてゆく。


虎刈一閃ティガー・スラッシュ!」


 並列して歩くしか能が無いロックゴーレムを横薙ぎにした。


 岩の瓦礫が散らばったところでココルを進ませて道を作ってもらう。馬車を進ませる必要があるからにゃ。オルガにはバックアタックを警戒してもらっていて、クリスは馭者の勉強にゃ。


 しばらく行くと半ば拓けた場所に出た。


「気をつけるにゃ」


 ギャア! ギャア! ギャア!


「ロックンバードか!」

「そうにゃ。奴らはロックゴーレムと違って変則的にゃ動きをするにゃ」


 確かに変則的にゃ。頭の冠羽?をバンバン振り回してヘドバンするし、左右への移動も速い。そして岩みてぇに硬ぇ鳥にゃ。岩みたいにゃのに身軽で羽でわずかに飛ぶことも出来るにゃんて、カトブレパスにゃんかよりずっと面倒にゃ。


 俺はオルガたちに馬車の護衛を頼んだが、ココルの影に隠れてるだけにゃ。さすがのロックンバードもココルには近づかにゃい。頼もしいにゃ。


 さて⋯⋯と?


「案内料、弾んでもらうぜ? 下がってろにゃ!」


 俺を下がらせ自分は前に出るクロノア。


 爪を拡げて大きく構えをとった。案の定ロックンバードに囲まれて、クロノアの逃げ場がにゃくにゃったにゃ。


斬炎舞フラッシュロンド


 クロノアを囲んだロックンバードに飛び火して引火。ロックンバードは岩ではない。岩のように硬い羽根をまとっているだけにゃ。羽根には脂が塗り込まれているため、引火すると勢いよく燃える。羽根は燃えると硬さを失い、硬くなくなったロックンバードは次々に切り刻まれてゆく。


 シュルル⋯⋯シュタ!


 クロノアの回転がピタリと止まると、それを取り囲むように焼き鳥がぐるりに積み上がっていた。


「さあ、進むにゃよ!」


 頼もしいにゃ。


 ココルがロックンバードを美味しそうに平らげた。焼き鳥の匂いが立ち込めている。さっき食事してなければ食べていたかも知れない。クロノアはロックンバードの足を一本腰にぶら下げていてシュールにゃ。


 クロノアのおかげでダンジョンを迷うことなく順調に進んでいるにゃが、ドラゴンに近づいているのがわかるくらいに魔素が濃くなり、空気に熱を帯びる。しかし火竜ではないはずにゃ。深い青の地竜と言っていたにゃね。


 周囲にヒカリゴケが生していて、光を灯さなくても、岩肌がぼんやりと視える。間違いない、水場が近いにゃ。


「止まれにゃ」

「にゃ」


 クロノアが足を止めた。この先に何かいるにゃ。慎重なところを見ると強敵にゃか?


 洞穴の先から押し出されるような空気圧を感じる。


「ヤバい! みんな逃げろ! 早く!! さっきの拓けた場所まで止まるんじゃねえ!!」


 何にゃ? いや、とりあえずここはクロノアの指示に従って動くが賢明にゃろう。走っているのに後ろから追い風が来るのだから、これは異常にゃ。


 ズズズズゾゾゾゾ!!


 なんにゃなんにゃ!? 異様な音とともにものすごいスピードで何か来る!?


 ふと、振り返るとその先には洞穴を埋め尽くすほどの⋯⋯


 液体!? いや、苔を飲み込んだヘドロ? 違うな、あれは⋯⋯


「モススライム!!」

「振り返るにゃ!!」


 あんなのに飲まれたら一溜まりもなく全員窒息死にゃ。クロノアが気づくのが遅かったら今頃みんなアイツのはらの中にゃ。

 通常にゃらば、スライムは半透明にゃ液体にゃのでなかの魔核が視えるにゃが、苔の塊とあって不透明にゃ。核をピンポイントで狙いにゃいので一か八かで狙うのは悪手と言えるにゃ。


 にゃが、このままでは広場に出る前に⋯⋯ココルならヤツを塞げるか? しかし、時間がかかるとココルの外皮が溶かされてしまう。どうする?


「にゃ!」


 ズザザッ! 止まり、振り返る。


「あっ!? おい! やめろにゃ!」

「行けにゃ!」

「死ぬぞ!?」

「いいから、俺を置いて行けにゃ!」


 くっ、想像を超えて速い!! やれるか!?


 片足を引き、腰を落とし、両手を後ろに構えた。


 押し出される風圧。

 迫り来る苔の壁。

 引きつけろ。

 もっと。

 もっとだ!!


 ──!!

 遠く、背後から声。

 

「ふぅ」


 集中しろ。


 ⋯⋯来る!


「インフィニッ──ゴプッ!


 世界がヒカリゴケの淡い光に包まれた。




 

「テンテ────────ッ!!」


 洞窟内の空気を切り裂くクリスの声は、俺に届くことはにゃかった。





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