神社の軒下に生えた赤いキノコは…
雨が続く六月の終わり、七瀬は駅の向こうにある神社の境内にいた。
雨の量は多く、傘をさしていても七瀬の肩口は濡れていた。
この神社は地元の中高生らの界隈では、ちょっとしたスピリチュアルな場所となっていて、みんなが勝手にパワースポットとして崇めていた場所となっている。
七瀬はゆっくりと境内を歩き回り、本殿の裏側に回った時、急に何かを見つけたかのようにしゃがんみ込んだ。
「本物は…結構赤いんだね」七瀬は独り言を言った。
ボクらは噴水の公園を抜けて商店街へと向かっていた。
隣には水色の自転車を押す七瀬が肩を並べて歩いている。
「このカバン、入れて良い?」と言いボクは自分のカバンを七瀬の自転車の前カゴに入れると、二人分のカバンが入ったせいで重くなった自転車は、バランスを崩しそうに揺れた。
「うー、自転車重くなった。ロク押して」そう言うと七瀬は自転車をボクに渡した。
「乗って行こう」そう言いボクは七瀬の自転車に乗った。
七瀬も「私も後ろに乗るー」と言った。
ボクらがイツムラ文具店につくと、店番をしていた里美が向かい入れてくれた。
「いらっしゃいー。歩いて来たの?暑かったでしょー」
ボクらは、文具店の向かいにある氷川神社に自転車を停めて通りを渡って来たのだけど、里美はボクたちが学校からずっと歩いて来たのだと思ったのだろう。
「びっくりしたよ。急に二人で来るとか言うから…。わざわざトークで連絡が来たってことは…今日は買い物をしに来た訳じゃないんだよね?昨夜も七瀬ちゃんが、お姉ちゃんのこととか訊いて来たし」
「まあ買い物もあるけどね…。MONO消しある?ブラックカラーのを買いたいんだけど」
「うん。七瀬ちゃんはいつもMOMO消しブラック使ってくれてるもんねー」
「そうそう。MONO消しはよく消えるしさ、ペンケースの中で転がっても汚れが目立たないブラックは神だよねー」
「七瀬ちゃんいつもありがとうねぇ。まいどでーす」コクンと会釈をする里美。
「こちらこそありがとうだよ。ここイツムラ文具店のMONO消しはね、地域最安値なんだよねー。私調べだけど」七瀬も笑顔を見せる。
「嬉しいなー、うちはね、利益度外視でやってるんだよ。赤字覚悟なんだ。
未来の子供達に持続可能な消しゴムの提供を、ってね」里美もふふふと笑顔を見せた。
「んじゃボクも何か買おうかな…」ボクは店内に綺麗に並んだ文房具を眺めた。
店の奥には小さな子供向けの図鑑が陳列されていた。
“動物、乗り物、宇宙…”と多種に渡るカラー写真の図鑑が並んでいた。
ボクはその中のNo,9と書かれた一冊を手に取った。
背表紙には”キノコ大全集”と書かれていた。
ざっと数ページをめくる。
「…へー、キノコって日本だけでも一万種類もあるんだって。そのうち食用がたったの百種類で、毒キノコが二百種類って、毒キノコの方が多いんだね…」
ボクの言葉に合わせて里美は返答する。
「ふーん、椎茸とか舞茸とか…スーパーで買えるものって、ほんの数種類なのに、
実際はたくさんあるんだね…。ってロク君。、その図鑑、うちの商品なんだけど…」
「ロク、売り物を汚したら、即お買い上げだよ」七瀬がボクに言った。
「あ、ごめん…」そう言いボクは”キノコ大全集”を棚に戻した。
「で、二人が来たのは何か私に訊きたいことがあったんだよね。お姉ちゃんのことでしょ?」里美は商品の陳列を整えながらボクらに訊く。
「うん…その昨日も七瀬が訊いたかもしれないけど…」
「お姉ちゃんのことでしょ?」
「うん」
「今ちょっと出かけてるみたいなんだけど…お姉ちゃんが帰って来るまで待つ?」
ボクらは里美の姉、美海さんが帰宅するまで、里美の部屋で待たせてもらうことになった。
「この部屋に入るの久しぶりだなー」ボクが里美の部屋を見回しながらそういうと、
「こらこら、女子の部屋をジロジロ見んな」七瀬がボクにチクリと言った。
「あ、懐かしいー、その二人のやり取り。前にもそんなやり取りを見た気がする」
そう言い里美の口元が緩んだ。
里美の部屋には大きなクマのぬいぐるみがソファに座っていた。
女子に人気のキャラクターのそのクマには青いリボンが胸に付いていた。
ボクが…昔、里美にプレゼントしたクマだ。
青いリボンもそのままだった。
「久しぶりだね。元気だったかい」ボクはクマにささやいた。
「なになに?今クマに何か言った?」七瀬がボクの行動に気がついたが、
里美は何も気が付かないフリをして、ボクらに背を向けて机の上を片付けていた。
つづく
裸足の女子へ毒キノコパスタを 浅川 六区(ロク) @tettow
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