誰に向けた言葉

くろわか

矢印

好きだよ

誰に向けた言葉なのか。

そりゃ好きな人だろう。

大嫌い

誰に向けた言葉なのか。

そりゃ嫌いな人だろう。



君からの言葉は、いつも僕に向けている気がしない。誰にでも当てはまるような、誰でもいいような。ありふれがちな言葉と、初めて聞く表現の言葉達の合わせ技で、この世のどこかに語っている。

そのどこかにたまたまいるだけ、そんな感じ。


久しぶりに愛してるなんて言った。

言われたから言い返した。

満更でもなさそうな顔と態度、特に口元。


いつぶりだか、彼に愛してるなんて言った。

いつもは好きとかしか言ってない。そもそも好きすら言ってない。

まさか言い返されるとは思ってなかった。



今日も街中は知らないカップルだらけ。

明らか金目当てな年の差カップル、

高校生くらいのカップル、

買い物帰りっぽい熟年夫婦。

誰かの言葉は、目的と相手を持って放たれるだろう。

しかし赤の他人でもその声は聞こえるものだ。

愛してるなんて家でやってくれよ。

照れた顔なんてそいつにだけ見せてやれ。

理由も経緯もしらない自分らが

あいつらの恋愛ストーリーの舞台に乗せられている

俺らはあいつらの物語の脇役に勝手にエキストラとして出演しているんだ。

大げさにいえば、地球上至る所で、数々の物語は進んでる。

何十億もの脇役と、数百人未満の主要キャラ達。

言葉の矢印は、四方八方に向かっている。

矢印は一つだけじゃない、無数にある。

陰口も褒め言葉も、独り言も寝言も

脇役達の耳に無条件で入ることができる。

だから、二人きりの場所で、きちんと言ってあげないといけないはずなんだ。



愛してる。

君を。

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誰に向けた言葉 くろわか @kurowaka

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