5

地下通路、薄暗いランプの光に照らされた階段は長く、冷たい空気が肺を刺す。人々の足音と息遣いが混ざり合い、静かな恐怖が空間を覆っていた。


やっと辿り着いた核シェルターの扉は、重厚な鉄でできており、軍人たちが素早く閉める。

内側からガッチリと閉まる音が響き、外界の警報や混乱から隔絶された世界が現れた。


中は薄暗く、金属の匂いと空気清浄機の微かな音だけが支配していた。

シェルターには家族連れや街の人々、軍人たちが肩を寄せ合うように座っていた。

イナ・イエヴレワは小さなスペースを見つけ、膝を抱えて座る。


手を合わせ、目を閉じる。

「神さま……」

彼女の声はかすかで、震えていた。

昨日の湖の夢、今日の恐怖、そして母のこと――全てが心を押し潰すように迫ってくる。


「私、やっぱり……生きたい……」

涙が頬を伝う。

「どうか、みんなが無事でありますように。ソビエトも、アメリカも、世界中の人たちも……生きて……」



手紙を書いたこと、祈りを捧げたこと――それだけでも、自分の生を繋いでいる確かな証なのだ。



「……生きよう……死ぬまで……」







(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソビエトの湖畔 紙の妖精さん @paperfairy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る