第9話 魔人 VS 魔王
『あなたの命をもらいに来たんです』
……と言われてしまった。
魔王ヴィットーリオに。
てか長いからトーリくんでいっか。
大きくなってもトーリくんはトーリくん。
あれだよ、親戚のおじさんおばさんが甥っ子姪っ子を何歳になっても子ども扱いするようなもんだよ。
そのトーリくんにはっきり言われちゃったらもう、しょうがないよな〜。
「一応聞くけど、話し合いの余地は?」
「ありませんね」
「んじゃ、しょうがないな」
全力で抵抗するぜ。
俺流のやり方でな。
「一応言っとくけど、大人しく殺られる俺だと思うなよ」
「魔人の中では決して強くないと聞きましたが?」
「オセくんか、そゆこと言うのは。確かに俺は下から数えた方が早いが」
しか〜し、魔人ランキングと実戦での勝ち目は別なのだよ。
俺はトーリくんが相手なら勝ち目はあると考えている。
「悪いがトーリくん、手段を選ばずやらせてもらうぜ。俺の奥の手は結構汚いがな」
「口だけでなく、かかってきたらどうですか? 子どもと遊ぶだけしか能のない貴方に奥の手があるならですが」
「フッ、子どもの遊びを甘く見るなよ」
俺はプレゼントの袋からアイテムを取り出した。
「見よ! これが勇者のたまごくんが11歳の時に考えた『ぼくが考えた最強の盾』だ!」
袋から取り出されたそれは眩しいほどの光を放つ黄金の盾だった。
表面に獅子の顔が浮き彫りにされている。
「ゆけ、レオシールド!」
その盾を軽く投げると、マッハの勢いで加速して、盾は自ら魔剣レーヴァテインにぶち当たって行った。
「何!?」
トーリくん驚いた?
驚いたよね?
俺もこの盾リクエストされた時は驚いた!
「レオシールドは自ら敵の武器に体当たりしにいく盾なのだ! 武器をへし折るまで何度でも当たりに行くぞ!」
「そんな盾あるわけないでしょう!?」
「甘いな、トーリくん。子どもの考える『最強の○○』は常識に囚われない自由な発想で出来ているのだ」
そして俺の権能はそんな子どもの夢を具現化するというものなのだ。
良い子のリクエストで『こんなプレゼントが欲しい!』と言われたら、それがどんな物であろうと、自然に作れてしまうのだ。
たとえ物理的法則を無視した物でも!
魔法技術の限界を超えた物でも!
どんな無茶苦茶なアイテムでも作れてしまうのだ!
神様から与えられた性能制限に抵触しない限りは!
作ろうと思わなくても、もはや勝手に出来てしまうと言っても過言ではないくらいに、ほぼ自動的に出来上がってしまう、それが俺、魔人サンダー・クロスの最大にして最強の権能なのだ!
そうやって作った『最強の○○』は大抵は危険すぎるので、袋にしまい込まれたまま日の目を見ない事になるのだが、今日こうして日の目を見ることになった。
実に喜ばしい。
レオシールドの場合はどう考えても盾を持つ本人が危険に晒されるので、プレゼントとして渡されることなく死蔵されていた。
自ら危険に飛び込んでいく盾なんて、子どもに持たせていい訳が無い。
でもまあ魔王にぶつける分にはいいかなって。
ヤバそうな魔剣だし、遠慮は要らねえ、折っちまえ。
今回それら『ぼくが/わたしが考えた最強の○○』の中から使えそうな物を厳選して、チューンナップして持ってきた。
トーリくんよ、果たして君は子どもたちの夢を超えられるかな?
レオシールドは当たり前だが疲れを見せる様子もなく、ガンガンと魔剣レーヴァテインを襲い続けている。
自律型の武器防具ってこういう所が便利だよな。
「どんどん行くぞ! 騎士のたまごくんが9歳の時に考えた最強の乗り物、燃え盛るフェニックスだあ!」
袋から飛び出したのはバカでかい火の鳥だ。
翼を広げると16畳のリビングくらいありそうだ。
そして熱い。
燃えてんだもん、オレンジ色の炎で出来てんだもん、1000度くらいあるもん。
「あちあちあち!」
取り出した俺の手も火傷寸前だ。
フーフーしとこ。
「どこが乗り物ですか! こんな熱い火に乗れる訳ないじゃないですか!」
トーリくん、ナイスなツッコミだ。
まさにその理由でお蔵入りになったんだよなー。
でも魔王にけしかけるにはいいかなって。
「まだまだあるぞ! 盗賊のたまごくんが10歳の時に考えた最強の投げナイフ! その名も爆裂ナイフだ!」
「どうせナイフが爆発するんでしょう?」
片手でレオシールド、片手でフェニックスをあしらいながら、トーリくんがツッコむ。
だが甘いな。
「爆裂ナイフはターゲットに当たる直前、自ら千本に分裂するのだ! そして個別にアタックを仕掛ける。回避は至難の業だぞ! ただし一本一本は縫い針サイズだがな!」
「弱すぎるでしょう! 縫い針のどこが最強ですか!」
「縫い針舐めるな! 鎧の隙間から侵入できるんだぞ。おまけに嘘つきに飲ます事もできる」
「日本人にしか通じないギャグですね!」
だからお蔵入りになったんだよな。
でも魔王に嫌がらせするにはいいかなって。
次行こう、次。
「次は錬金術士のたまごちゃんが考えた最強の反陽子爆弾」
「おい!」
「……は危なすぎるので神様によるNG判定に引っかかりました。仕方がないので次点『踊るバレリーナ人形』だ! 空中を猛スピードで飛行しながら1秒間に36回転する高速スピンで攻撃してくるぞ! ちなみにトゥシューズのつま先はミスリルブレードで切れ味抜群だ!」
「嫌な人形ですね!?」
女の子はお人形好きだよな。
その流れで次。
「公爵令嬢エカテリーナちゃんが10歳の時に考えた『最強のクマちゃん』だ! 普段は可愛いぬいぐるみだが、暗殺者から所有者を守るため、気合を入れて巨大化するぞ! 魅惑のモフモフボディは打撃無効、おまけに必殺のボディプレスで敵を窒息させる事もできるぞ!」
「ただのどデカいぬいぐるみじゃないですか! ええい、鬱陶しい!」
魔剣レーヴァテインで切り払われて、クマちゃんはバラバラにされた。
ご愁傷さま。
しかしレオシールドとフェニックスとバレリーナ人形はまだ頑張っているぞ。
「こんな時には花屋のマリアちゃん7歳が考えた最強のお花『ヒーリングサンフラワー』だ! 巨大なヒマワリが癒しの光をまき散らし、傷ついた仲間を復活させるぞ!」
花の真ん中にニコニコ笑う顔が付いているヒマワリが柔らかく暖かな光を放つ。
なんとなく遠赤外線を連想するその光を受けて、バラバラにされたクマちゃんが元通りにくっついて立ち上がった。
「ズルい! そんなのアンフェアです!」
「言ったはずだぞ、トーリくん。俺の奥の手は汚いと!」
本当、ズルいよね。
でも子どもってそんなもんだよ。
ワガママいっぱい夢いっぱい。
「サクサク行こう! 王太子レナードくんが考えた最強の昆虫ペア、『アダマンタイトオオクワガタ』と『メタモルフォチョウ』だあ! 前者は素敵な不思議金属外骨格であらゆる攻撃に高い耐性を持ち、その大アゴはオーガの頭も噛み砕く! 後者は光学迷彩と幻惑効果のある鱗粉を併用し、敵の死角から襲いかかるぞ! もちろんこんな生き物はいないので、人工生命体で作りました」
ホムンクルス製造出来るからね、俺。
この手の人工生命体は最初にぶつける相手を指定しとけば、ある程度自分で考えて戦ってくれるから助かる。
俺自身は戦闘指揮とか苦手だからな。
どこかの良い子が指揮官人形か参謀人形をリクエストしてくんないかな。
アダマンタイトオオクワガタは魔王をギラギラ光る大アゴで狙っている。
メタモルフォチョウは何かしているようだが、光学迷彩でわからない!
「王太子レナード、今度会ったらコロス……」
なぜか魔王に逆恨みされてしまったレナードくん。
だがやすやすと殺されはしないと信じているぞ!
袋にはまだまだたくさんのアイテムが入っているぞ。
子どもって『最強の○○』考えるの好きだよね。
男の子は特にね。
「さあトーリくん、最強で、最高のバトルアリーナだ! 久々に本気出して遊ぼうぜ!」
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