第9話 かまってちゃん

「あんた達、相変わらずいちゃついてるのね。」


母の口から出た言葉は意味不明のものだった。

誰と誰がいちゃついてるっていうのかしら。

真紀ワタシと士郎のこと、ではなさそうだ。

美紀と士郎のことだったら「あんた達」とは言わないだろう。

少なくとも真紀ワタシが含まれてるのは間違いないのだろう。

残ってる組み合わせは…まさか真紀ワタシと美紀!?


「大方、美紀があんたにじゃれついてきてるんでしょ。」


は?

美紀が真紀ワタシにじゃれついている?

母はそれを真紀ワタシと美紀がいちゃついてると認識していると。

美紀の行為はそんな言葉で納まるものじゃ決してないと思うんだけど。


「美紀は昔っからあんたのこと好き好き大好き光線出しまくってたのに、あんたときたらお友達ばっかり相手にしてるから大変だったのよ。真紀が遊んでくれない~って泣きじゃくっちゃって。」


は?

何それ。

冗談でしょ。

真紀ワタシに対する嫌がらせの免罪符を手に入れるための偽装にしか思えないんだけど。


「あんたは美紀の構ってよ作戦に嵌って、その度に美紀の相手をしてあげたから味を占めちゃったのよね。」


は?

どういうことかしら。

美紀のこれまでの行動は真紀ワタシに構ってほしいがためにやっていたとでも言うの?

とても信じられないんだけど。


母が真紀ワタシに嘘をついているとも思えないけど、簡単に納得できる話ではない。

美紀が真紀ワタシのことが好き過ぎてしまったが故に結果的に真紀ワタシの生活を脅かしていたなんてあり得ないでしょ。

百歩譲ってそうだとしても、真紀ワタシの彼氏を誑かして美紀のモノにしちゃうってそれは違うでしょうよ。

理解不能だわ。


母に言われて思い出したけど、確かに美紀が真紀ワタシのモノを隠したり、取ったりした時に真紀ワタシは美紀にそこまで怒りをぶつけたりせずに一緒に遊んであげていた。

双子だものね。

いつも一緒にいるのが当たり前みたいなところがあったし、ちょっとぐらい腹が立ってもすぐに許してあげられていたのよね。

彼氏を取られた時も、同じ容姿だからってすぐに美紀に靡くような男なら別にいっかって激怒するほどはなかったような。

そもそも、本当に交際が始まるか始まらないかぐらいだったから取られたっていうのも厳密には違うともいえるしね。

だからって言って、全部水に流して何の蟠りもないってことにはならないわよ。

ずっとお預けくらってる犬の気持ちも考えてみてよ。


母に機先をそがれる形になってそれ以上の話を切り出すことができなくなった真紀ワタシはこの後を適当な話で濁すと母の家を後にしたわ。


「いつでもいらっしゃい。でも次来るときはナガノパープルがいいわ。」


母の家を出る時にサムズアップと素敵なウインクで次の貢ぎ物を指定されちゃったわ。

ナガノパープルって十月の中旬にはあまり見かけなくなったと思うけどそれまでにもう一度来いってことなのかしら。

仕方ないわね。今日のシャインマスカットも美味しかったし、同じ店で買っていってあげるわよ。


家に帰ってからもう一度よく考えてみる。


母の言ったことを全面的に信じるなら士郎と美紀は真紀ワタシが心配するようなことは何もないってことになるのかしら。

でも、美紀が真紀ワタシに構ってほしいなら士郎にちょっかい出して、真紀ワタシをゴタゴタに巻き込もうとしてもおかしくないんじゃないかしら。

そうすると、士郎と結婚する前には何もしてこなかったのが不自然と言えなくもなくて。

たまたまその頃は、真紀ワタシより夢中になれるものがあったのかもと考えると十分説明はついちゃうのか。

そんで今になって、またかまってちゃんが強く出てきたということならストーリーとしては成立する、と。


何にしても結局すべての元凶は美紀ってことじゃない。

めんどくさっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る